クマの出没や人身被害が急増する昨今。どうすれば危険を回避できるのだろうか。『日本クマ事件簿』『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(ともに三才ブックス)の編集・執筆を手掛けた風来堂が、当事者や識者を取材して得た、クマの生態や命を守るためにできる知識を紹介する。
取材・文=風来堂

従来は登山道など山中での遭遇が想定されてきたが、いまや人里や街中でもクマの出没が相次いでいる。そのような状況のなか、改めて注目を集めているのが「クマ鈴」だ。ただ、クマ撃退スプレーと違ってクマ鈴は性能差が見えにくく、どれを選べばよいのか判断しづらい一面も。

そこで、硬質アルミニウム製のクマ鈴「DaiFeel」を手がけるダイキ精工と、岩手県岩泉町で山菜採りを生業とし、クマ鈴を愛用する佐藤誠志さんに話を聞いて導き出したのは、「音域の異なる鈴を2つ持つ」という選択肢。素材や形状で音の届き方が異なるため、組み合わせることで“クマに先に気づかせる確率”を最大化できるという考え方だ。

クマが苦手な音色はわかっていない

日々山に分け入り、クマの棲息する“現場”に立つ佐藤誠志さんは、クマに人の存在を先に気づかせることの重要性を語る。

「本来クマは臆病な動物であり、通常は事前に人間の気配を察知して避けて行動しています。臆病な特性から、鉢合わせると驚いてしまい、攻撃に転じる場合があるんです」(佐藤さん)

クマ鈴は「嫌がる音でクマを撃退する道具」と誤解されがちだが、本質は人の存在を先に知らせ、出会い頭を減らす通知音にある。環境省も、「クマは聴覚に非常に優れ、小さな音でも聞き分ける」とし、音で存在を知らせる合理性を裏づけている。

クマに人間の存在を知らせるための「クマ鈴」
クマに人間の存在を知らせるための「クマ鈴」
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「どの周波数がクマ避けに効くかは、実はまだ十分な根拠がないんです」と話すのはダイキ精工の斎藤早苗さん。そのため、十分な音量がどのぐらいの距離まで届けられるか、が肝要になってくる。

“嫌がる音”を狙う発想ではなく、遠達性のある音を確実に鳴らす。それが、出会い頭を減らすためのクマ鈴が担う役割だ。

素材で音色や耐久性が異なる

では、どのようなクマ鈴を選べばいいのだろうか。

クマ鈴の多くは、真鍮や鉄などの金属製だ。素材や形状によって音色や音量、重さ、耐久性が異なる。