クマの出没や人身被害が急増する昨今。どうすれば危険を回避できるのだろうか。『日本クマ事件簿』『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(ともに三才ブックス)の編集・執筆を手掛けた風来堂が、当事者や識者を取材して得た、クマの生態や命を守るためにできる知識を紹介する。
取材・文=風来堂
クマと人間が出会う場所は、里山から郊外、市街地へと移り、今年はその傾向が一段と強まっている。環境省によると、クマに襲われて死亡した人は13人、被害件数は209件・230人(12月5日時点)と、記録が残る2006年度以降の同期比で過去最悪だ。
本来、人を避けて暮らす臆病な動物のはずが、なぜ人を襲う事態が相次いでいるのか。その背景には、飢えだけでは説明できない行動の変化や、人との距離の失われ方があるという。
胃の中には米が詰まっていた
これまでも「クマの出没が増える年」はあった。その際にしばしばいわれるのが「ドングリなどの餌不足」だ。
確かに山の実りが少ないと、生きるために食べ物を求めてクマは人里に下りてくる。これは従来通りの行動だ。しかし、今やすべての被害を飢えだけで説明することはできない。
2025年7月、岩手県北上市の住宅にクマが侵入し、居間にいた女性が襲われ、命を落とした。加害クマの胃の内容物は、3分の2が米で、残りの3分の1が草であり、脂肪もついていた。栄養状態は良好だったという。
つまり「餌がなくて仕方なく人を襲った」のではなく、「すでに人の生活圏で食べ物を得ることを学習した個体」だったと、同個体を解剖した岩手大学農学部の山内貴義准教授は指摘する。
「本来クマは草や木の実を主に食べる雑食性の動物です。シカやイノシシなどの死骸を口にすることはあっても、人を獲物として襲うケースは極めて稀です」(山内さん)
かつては開け放たれた納屋や家屋に偶然入り込む程度だったが、近年は、人がいても逃げず、冷静に侵入を繰り返す個体が確認されている。
「冷蔵庫の取っ手を開けて米を食べた」「同じ民家に再び侵入した」、そんな報告もある。
