「先に気づかせる」ための日常の備え
ダイキ精工は、航空精密部品の金型の製造・販売が本業だ。DaiFeelの開発の起点は意外で、たまたま金型の端材から削り出した風鈴が想像以上に澄んだ音を奏でたことに端を発する。そして、お客さんの「この音でクマ鈴を」の一言で製品化へ。
ちょうど2023年の、全国的にクマの大量出没が報じられたタイミングでもあり、需要の手応えが背中を押したという。
開発は厚みとのせめぎ合いから始まった。
「薄くし過ぎると耐久性が落ち、音も痩せる。 逆に厚くすると重くなり、鳴りの立ち上がりが鈍る。形状や厚みを少しずつ変えて試作と測定を反復し、現在の2~3mm前後の厚みにたどり着きました」(斎藤さん)
音は個体差が出やすいため、周波数アプリと人間の耳でダブルチェックしてチューニング。偶然の着想を入口に、材質×厚み×形状の設計変数を一つずつ潰していく。その積み上げが、現在の仕様へとつながっている。
「クマ鈴をつけていれば100%安全とは言えないですが、クマ鈴は数ある“音を出す手段”のなかでももっとも手軽で、携行のハードルが低いです。今季は冬眠しない個体の出没も指摘されているので、山に入るときだけでなく、日常の移動や生活圏でも“先に気づかせる備え”として活用してほしいです」(斎藤さん)
クマ鈴は、クマを撃退するための武器ではない。人の存在を知らせる道具だ。高音と低音の異なる音域の鈴を2つ持てば、遭遇リスクをより減らせる可能性がある。ただし“無敵”ではない。あわせて自治体の出没情報の確認や、クマ撃退スプレーの携行など、複数の対策を重ねて備えたい。
風来堂(ふうらいどう)
旅、歴史、アウトドア、サブカルチャーが得意ジャンルの編集プロダクション。『クマから逃げのびた人々』、『日本クマ事件簿』(以上、三才ブックス)など、クマに関する書籍の編集制作や、雑誌・webメディアへの寄稿・企画協力も多数。
