クマの出没や人身被害が急増する昨今。どうすれば危険を回避できるのだろうか。『日本クマ事件簿』『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(ともに三才ブックス)の編集・執筆を手掛けた風来堂が、当事者や識者を取材して得た、クマの生態や命を守るためにできる知識を紹介する。
取材・文=風来堂
街中や住宅街へのクマの出没が相次ぎ、玄関を出た直後に襲われたケースさえある。クマはどこから、どうやって人の暮らしの場に入り込むのか。
共通点は「身を隠せる導線が連続している」こと。河畔林や草むら、放置地の茂みが“緑のトンネル”となり、山から市街地までクマを導いている。
川をつたった先がたまたま市街地だった
「クマは基本的に川沿いや草むらなど、身を隠しながら移動できるルートを通って人里へ下りてきます」。岩手大学農学部でクマを研究する山内貴義准教授はそう説明する。
河川の周辺に生い茂る森林、いわゆる「河畔林」は、野生動物たちの通行路になりやすい。市街に通じる川沿いに山から下りてくるのだ。
「草が繁って見通しが悪くなるほど、クマにとっては安心できるルートになります。餌を探しながら河畔林づたいに移動した結果、そこがたまたま市街地だったというわけです」(山内さん)
実際、富山県立山町では2025年10月20日朝、ごみ出し中の80代女性がクマに背後から突き飛ばされ負傷。現場は常願寺川の河川敷から約200mの地点で、周辺には足跡やフンも確認された。市街地近くまで続く河畔の緑地が、導線になった典型例だ。
今年のように山の餌が不足した年は、この動きがいっそう顕著になる。ドングリなどが不作だと、クマは生きるために人里へ下りざるを得ない。
山内さんは、過去の調査結果をこう説明する。
「同じく凶作だった2年前、本学の学生が河畔に自動撮影カメラを設置して出没状況を追ったところ、街中に近い場所で親子グマの映像が非常に多く記録されました。山に餌がないため、親グマが一時的に町まで下り、そこに『食べ物がある』ことを経験したのだと思います」
母グマに連れられて里に下りた当時の子グマは、約2年で成獣になる。
「2年前の凶作時に子グマだった個体が成長し、学習したルートをたどって再び自分の足で里に戻ってきたとみるのが妥当でしょう」と山内さんは指摘する。
こうして、生まれたときから里に下りることをためらわない「アーバンベア」が常態化しつつある。山の外を「危険な場所」と認識しないまま成長した個体が増えることで、人との接触機会は必然的に多くなり、遭遇リスクは高まっていく。
