クマの出没や人身被害が急増する昨今。どうすれば危険を回避できるのだろうか。『日本クマ事件簿』『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(ともに三才ブックス)の編集・執筆を手掛けた風来堂が、当事者や識者を取材して得た、クマの生態や命を守るためにできる知識を紹介する。

取材・文=風来堂

札幌の住宅地で4人を次々襲撃

2021年6月18日未明、札幌市東区の路上にヒグマが出没した。人口196万人を抱える札幌市の北東部に位置する東区は、市を横断する札幌新道や環状通が区内を貫いており、大型の複合商業施設が点在する住宅地である。

札幌市東区の70代の男性が襲われた現場
札幌市東区の70代の男性が襲われた現場
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当該クマは、体長約160cm、体重158kg、5~6歳の若いオス。住宅街を縦断し、4人を次々に襲撃したのち、丘珠空港近くの茂みでハンターに駆除されるまでの約8時間、市民を恐怖に陥れた。

4人のうちとりわけ重症を負ったのが、安藤伸一郎さんだ。

安藤さんの背中と脇の裂傷。入院治療は7カ月に及んだ(本人提供)
安藤さんの背中と脇の裂傷。入院治療は7カ月に及んだ(本人提供)

午前7時18分頃、札幌市営地下鉄東豊線・新道東駅に徒歩で向かっているところを突然背後からクマに襲われた。クマはわずか30秒ほどの間に、両腕、太もも、すね部分を次々と噛み、右肋骨6本骨折、肺気胸と、全身を140針縫う大けがを負わせた。

そもそも山のない東区の住宅街に、まさかクマが出るなんて誰が想像できただろう。東区で人がクマに襲われるのは1878(明治11)年以来、実に143年ぶりの出来事だった。

「アーバンベア」が増加

秋田大学医学部附属病院高度救命救急センターで、救急医として傷病者と向き合ってきた中永士師明(なかえはじめ)先生は、クマ被害について「これまでは山中での遭遇がほとんどだったが、近年は市街地の例が増えている」と指摘する。