クマの出没や人身被害が急増する昨今。どうすれば危険を回避できるのだろうか。『日本クマ事件簿』『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(ともに三才ブックス)の編集・執筆を手掛けた風来堂が、当事者や識者を取材して得た、クマの生態や命を守るためにできる知識を紹介する。
取材・文=風来堂
近年、クマによる事故のニュースを目にする機会が増えている。
環境省によると、2025年4月から9月末までにクマによる人身被害は全国で108人に上り、このうち5人が死亡している。
10月に入ってから、長野県大鹿村で1人、宮城県栗原市で1人の熊害死亡事故が発生。2023年の6人を上回り、10月頭の時点で過去最悪を更新してしまった。
従来は山菜採りや登山中の事故が中心であったが、近年では人の生活圏にクマが出没して被害を受ける例も目立っている。かつては山奥の出来事と思われていたクマ害が、住宅地や都市近郊で起きるようになったのはなぜか。クマの生態と行動をひもとく。
国内最大の陸上動物
世界には8種類のクマが存在するが、日本国内に生息するのはヒグマとツキノワグマの2種類だ。ヒグマは北海道の約55%の地域に1万2200頭ほどが棲息し、ツキノワグマは、本州の約45%の地域に10万頭以上棲息しているとされている。いずれも、頭数が増えつつ、分布域が広がっている傾向にある。

ヒグマ:体長220~230cm、体重150~250kg。国内最大の陸上動物。
ツキノワグマ:体長110~150cm、体重80~120kg。胸の白い模様が特徴で、ヒグマと比べてサイズは小さいが危険性は変わらない。
クマは基本的に昼行性である。ただし市街地周辺に出没する「アーバンベア」と呼ばれる個体は、生活圏に人間の存在があることで行動パターンを変えることがある。また、人への警戒心が薄いのも特徴だ。