秋田県では2025年、クマが市街地にまで出没する深刻な事態となり、1年間で67人が襲われ、4人が命を落とした。高齢化と人口減少で捕獲圧が弱まる中、住民の不安は高まるばかりだ。突然、大切な家族の命を奪われた遺族の声は、対策強化の必要性を強く訴えている。

妻を突然奪われた夫の深い喪失感

池田孝二さん(86)
池田孝二さん(86)
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仏壇の前で静かに手を合わせる秋田市雄和の池田孝二さん(86)。2025年10月27日、池田さんは妻の静子さん(当時81)を突然失った。

池田静子さんが倒れていた現場(2025年10月・秋田市雄和萱ケ沢)
池田静子さんが倒れていた現場(2025年10月・秋田市雄和萱ケ沢)

自宅近くの側溝に倒れていた静子さん。身体の損傷が激しく、その場で死亡が確認された。警察の調べで、クマに襲われたものと判明した。

「まさかクマにやられたとは思わなかった。ただ腹が悪いという頭しかなかった」と話す孝二さん。

孝二さんは、義理の弟とともに行方を捜していた最中、変わり果てた妻の姿を目にした。「2人とも体が震えて、まるっきり話ができなかった」と振り返る。

最後の会話は「ゆっくり運転して」

事故の朝、静子さんは病院へ向かう夫に「スピードを出さずにゆっくり行け」と声をかけたという。「はい、わかった」と返したのが最後の会話になった。

亡くなった池田静子さん
亡くなった池田静子さん

60年連れ添った妻は働き者で、家族を支え続けてきた。帰宅した遺体にはクマに襲われた際の深い傷が残り、孝二さんは言葉を失った。弔問に訪れた人たちとも対面させてあげられなかったという。

 「何を言ったって返事はない。南無阿弥陀仏と拝むしかないんだ」と孝二さんは静かに語った。

市街地にも出没 異常事態の2025年

人の生活圏への出没が頻発するようになったクマ(資料画像)
人の生活圏への出没が頻発するようになったクマ(資料画像)

秋田県では2025年、クマの出没が市街地にまで及び、県内で襲われた人は67人に達した。このうち4人が死亡。人を恐れないクマが増え、生活圏への侵入が常態化している。

背景には、人口減少と高齢化による里山管理の弱体化、猟友会の高齢化による捕獲圧の低下がある。

孝二さん自身も数年前まで猟友会に所属しており、近年のクマの変化を肌で感じていた。

若い担い手が不足 「ガバメントハンター」導入に期待

「市街地にいるクマは捕ってもらいたい」と話す池田孝二さん
「市街地にいるクマは捕ってもらいたい」と話す池田孝二さん

「市街地にいるクマは捕ってもらいたい。また別の人がやられる、絶対」と話す孝二さん。これ以上犠牲者を出さないためにも、若い世代の猟友会参加を求めている。

一方で県内では猟友会頼りの捕獲体制の維持が難しくなっており、自治体職員が狩猟免許を取得して駆除にあたる「ガバメントハンター」の積極導入など、行政による新たな担い手育成が急務となっている。

地域に残る深い不安

静子さんが亡くなった現場周辺の住民は今も不安を抱えて生活している
静子さんが亡くなった現場周辺の住民は今も不安を抱えて生活している

突然のクマの襲撃で家族を失った遺族の悲しみは癒えず、地域には今も不安が広がる。

高齢化が進む中、クマが生活圏を侵食する現状は、もはや「山の問題」ではなく「地域の安全保障」の課題となっている。

同じ悲劇を繰り返さないために、これまで以上に踏み込んだクマ対策が求められている。

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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