「君は当初、待合室のテレビでやっていたニュースで長官事件を知ったと言っていたけど、それも後で結城巡査部長(仮名)から電話で聞いたと話を変えた。
君の言っていた待合室にテレビは確かにあったけど、あれはテレビアンテナに繋がっていなくて、ただモニターとして使われていただけなんだよ。
あのテレビでニュースを観ることはできなかった」

「この日の朝、本当に病院に行ったのか?」
石室はまっすぐXに向き直った。
隠された真実の扉を開けようと、まさに形なきを見ようとした。
Xの目の前にいる取調官という存在は、もはやその存在そのものが鏡の様であり、Xはその鏡に自分がどう映るのか怖くなったかの様だった。石室と目を合わせることができない。
しばらくの静寂が流れた。
自分の膝を見ていたXが顔を急に上げた。神妙な面持ちである。

「当日、車で現場に行っています」
「そうだったのか」
石室は頷いた。
その後もしばらく沈黙が続いた。