2月16日から確定申告が始まる。
昨年、日本の『確定申告制度』を根本から崩しかねない事件が明らかになった。匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が、“うその申告”で、いとも簡単に税金をだまし取っていたのだ。
数百人の闇バイトが関わり、被害総額は数億円に上る可能性があるこの事件。だまされたのは税務署、だまし取られたカネは私たちの税金だ。
東京・栃木・愛媛・沖縄など、全国の税務署は、なぜうそを見抜けなかったのか。日本の税制の盲点をついた驚きの手口を取材した。
源泉徴収?還付金?そもそも確定申告って??
会社が給与や報酬を支払う際、あらかじめ所得税などを差し引き、受け取る人に代わって国に納める。この仕組みを『源泉徴収』という。
会社員の場合、ボーナスの金額などが流動的なため、その年の収入が確定するのは年末になることが多い。そこで会社は、毎月の給与から“おおよその所得税”を差し引いて納税(源泉徴収)。年収や控除額が確定する年末に、実際に納めるべき正しい税額を計算し直す。この手続きが『年末調整』だ。
個人事業主やフリーランスの報酬も、支払い時に会社が所得税を計算し、報酬から差し引いて国に納めるケースが一般的だ。ところが…。
個人事業主やフリーランスの場合、この「会社の計算」と、「実際に納めるべき所得税額」に大きな差が出ることが多い。なぜなら、個人事業主やフリーランスは、「その仕事にかかった費用(例えば旅費交通費や通信費、消耗品費など)」を『経費』として収入から差し引くことが認められているため、実際の所得額は「会社の計算」より低くなることが多いからだ。
例えば、個人事業主Aが、会社から年間500万円の報酬を得るとする。
会社は税率10%で計算し、50万円を所得税として納税(源泉徴収)。しかし、最終的に経費が200万円だった場合、個人事業主Aの所得は500万円ではなく300万円となる。納めるべき所得税額は50万円ではなく30万円なので、差額の20万円は戻ってくる。
このように、個人事業主が経費などの精算をするのが『確定申告』で、源泉徴収で払いすぎた所得税が『還付金』として戻ってくることが多い。この仕組みを悪用したのが、トクリュウによる『還付金詐欺』だ。
唖然となる手口とは…
トクリュウは数百人の闇バイトを使って「うその所得税の申告」を行い、「還付金」を受け取っていた。手口はこうだ。
●確定申告で、実在する企業の仕事の報酬として900万円を計上し、約90万円が所得税として既に納税(源泉徴収)されていると記入。
●その上で、経費が報酬を上回って赤字になったと申告。赤字の場合、支払うべき所得税は0円となるので、既に源泉徴収されていた(とされる)約90万円が還付される。
もちろん実際には、企業との取引の実態はなく、報酬も、源泉徴収も、経費による赤字もない。すべてうそだ。思わずポカンとなってしまうような話だが、実際にこれで90万円がだまし取られてしまったのだ。
「税務署は納税者の収入を把握していない」
なぜこのような、でたらめな申告が出来てしまったのか?税務署に27年間勤務し、確定申告の実務に関わった税理士によると、この事件の背景には、納税者が自分の所得や納税額を自分で申請する『申告納税制度』があるという。
【元税務職員・税理士】「税務署は、納税者それぞれの取引先や収入、納税額を把握していません。原則、納税者が申告した内容を税務署が信用することが前提です。申告書の形式や要件が整っていれば審査は通り、事務処理が進んでいくのです」
Qなぜ税務署では勤務先や所得、納税額が正しいかどうかを確認できないのか?
【元税務職員・税理士】「申告納税制度上、申告の中身・収入が適正かどうかその都度、判断するのは実質的に困難です。仮にマイナンバーカードで省庁が連携したとしても防ぐことは難しいと思われます。」
日本の税制度は“納税者の申告内容を信用する”ことを前提に成り立っている。このチェック体制の甘さにトクリュウがつけこんだのだ。
また、デジタル化が進み『電子申告納税システム(e-Tax)』が主流となったことで、IDやパスワードなどの必要な情報があればどこからでも手続きができるようになった。このことも犯罪に拍車をかけたと言えよう。
たった3000円で逮捕。安易な副業のはずが…
高知さんさんテレビは、この事件にかかわった“闇バイト名簿”を独自入手。当事者らを取材した。「手軽に副業が出来る」とうたうショートメールを信じた40代の男(高知県在住)は、言われるがまま「確定申告に必要なIDとパスワード」を作成。さらに銀行口座をつくり、口座番号などを伝えた。
男は「口座のまた貸しは違法」という認識はあったが、詐欺に関わっていることは知らなかったという。その後、税務署から還付金94万円が男の口座に振り込まれたが、何者かが別の口座に送金。男は「(約束した)報酬5万円」を求めたが、担当者と連絡がとれなくなり、口座に残った3000円が男性の報酬となった。男は94万円を税務署からだまし取った詐欺容疑で逮捕、起訴された。
指示されるがままに手続き…が懲役2年4か月の実刑判決
広島県の76歳の男は、「副業の報酬5万円」欲しさにSNSや携帯で指示されるまま税務署へ行き、指示された手続きを行った。結果、男の口座に身に覚えのない455万円が税務署から振り込まれ、そのうち男の“報酬”は6万円だった。男は詐欺の疑いで逮捕。うその報酬と経費を申告し、還付金を騙し取ったとして、懲役2年4か月の実刑判決を受けた。
76歳の男は、闇バイトと知らず、確定申告のこともよくわからない状況で、言われるがまま手続きを行ったわけだが、逮捕され、懲役2年4か月の実刑判決となった。これは、「なんのことだか分からなくても、『怪しいな』という思いがあったため、詐欺罪が認定された結果だ。
闇バイトより罪が重くなる…
では、「闇バイト」ではなく、個人が嘘の確定申告をして還付金を手に入れた場合、どのような罪になるのだろうか。
【梶原・みなみ法律事務所 南拓人弁護士】
「例えば非個人事業主が、事業収入や源泉所得税及び経費支出がある等と偽って確定申告を行い、還付金を得た場合は、『詐欺罪(刑法246条1項)』が成立し、10年以下の拘禁刑になるものと解されます。 」
「事件のように『闇バイト』に加担した場合より、重い量刑になります。 なぜなら、闇バイトの参加者は『欺罪に当たる行為の“共犯”とされたもの』ですが、個人が単独で行った場合は『(単独)正犯』となるからです。 今回のような詐欺は、一般に、詐取する金額が大きくなり、初犯でも実刑判決になることがあり得ます(事件の場合、自身の手元に入った金額ではなく、還付金額全額が詐取した金額となります)。」
高知さんさんテレビはこの事件について、1年以上取材を続けてきた。「正しく納税している」と胸を晴れる社会にするためにトクリュウに税制度を悪用されない対策が急務だ。
