申し込みが入ったのは、2024年2月の初回から譲渡会のチラシの主役を務めてきたオレガノ(メス・2020年生まれ)だった。
初回から参加しているということは、その間ご縁がなかったということだ。
多頭飼育崩壊現場の出身で人への警戒心は強く、3年前の保護当初は保護猫カフェのスタッフも触れることができない“上級”のシャー猫だった。最近は少しずつ人なれが進んできたというが、それでも、紹介カードに記された「人慣れてない度」は“中級”。
そんなオレガノに譲渡希望を申し出た猪爪雅也さんは、5頭の猫と暮らす猫好き。これまでにも福島県の帰宅困難区域で保護された猫など、さまざまなバックグラウンドを持つ猫たちを迎えてきた。
「会場でどっしり寝ていて、“うちの子たちと揉めなそうだな”と思ったのが決め手です。猫は“人なれしているほどかわいい”わけじゃないですし、構ってほしがる子は、うちにはもう十分いますから(笑)」
希望者たちが語る「猫の幸せ」
猪爪さんの言葉が示すように、譲渡希望者たちはみな、猫と暮らした経験が豊富。「先住猫ファースト」の姿勢も徹底している。「自分の楽しさ」よりも「猫の幸せ」を大事にするその姿勢に、「いいお家に巡り会えてよかったねえ」と感じられる方ばかりだった。
そして2017~18年生まれの成猫(ムーラン・メス)にも、譲渡希望者が現れた。梅田さんが語っていた「一般的に不人気とされる成猫や人なれしていない猫も、実は受け入れてくれる人が多くいる」という言葉が、そのまま形になった瞬間だった。
譲渡希望者が現れ、長く世話をしてきたスタッフが涙ぐむ場面は、「猫への愛のバトン」が次の人へ静かに渡された瞬間に感じられた。
最終的に、この日譲渡希望があったのは4頭。梅田さんは、その数字に悔しさもにじませながら、こう続けた。
「子猫ばかりを集めれば半分以上の譲渡が決まることはあります。そうした譲渡会も必要ですが、『でも、それだけじゃない』と僕は思っています」
人懐っこい子猫を抱く幸せもあれば、目を合わせない猫をそっと見守る愛もある。
距離の取り方も、甘え方も、時間のかけ方も猫それぞれ。その違いに寄り添いながら暮らすことを楽しめる人が、この譲渡会には集まっていた。
取材・文=古澤誠一郎
