「捕まえるのも大変で、手が出る子も多いんです」とボランティアスタッフの方は話していたが、この日は威嚇の“シャー!”やパンチをする子はいない。ケージ内に敷かれたベッドの下に隠れてしまい、ほぼ姿が見えなくなっている猫も何頭もいた。
住み慣れた保護猫カフェやシェルターを離れ、知らない人たちに囲まれる状況は、猫にとって大きなストレスだ。そのため、開催時間も2時間のみと、短い。一方で、こうした猫たちは普段の譲渡会には参加できないことも多く、この特別な譲渡会が“出会いのチャンス”になるのだ。
開場から1時間ほど経つと、最初の譲渡希望者が現れた。
「もともと2頭の猫を飼っていたんですが、1頭が亡くなってしまって。残された子に寄り添える相手を探して来ました」と話す福原玲子さんが選んだのは、オス猫の「川田さん」(2021年生まれ)だった。
「子猫はすぐに貰い手が付きますが、私はこういう(人なれしていない)子たちが好きなんです。気になる子は何頭かいましたが、この子は私が『またね』と立ち去ろうとしたとき、まだこっちを見ていたんです。『連れて帰ってね』と言われた気がしました」
この譲渡会では、愛嬌を振りまく猫に人が群がるような光景は一切見られない。
代わりに、動かずに固まる猫を見つめ、「かわいいねぇ」「頑張ってるね」と優しく声をかける人が目立つ。
そんな猫たちが発する“ほんの小さなサイン”。それを受け取れる「最強の飼い主」が会場には集まっており、スタッフもその出会いを後押しするように、動かない猫たちの魅力を丁寧に伝えていた。
譲渡会の“顔”にもついに訪れた春
2頭、3頭と譲渡希望が続くなか、閉会間際に1組の希望者が名乗りを上げた。
