これらは過去において社会に安定をもたらしたわけであり、容易に破壊すべきではない。逆に、急進的な改革を進めることはかえって社会の安定を脅かし、想定外の悪影響をもたらす可能性がある。改革には慎重さと経験則に基づく判断が求められるわけです。
人間の理性を全面的に信頼する設計主義
これに対して、設計主義は人間の理性を全面的に信頼し、それを疑うことを知りません。社会や制度には理性によってたどり着く「正解」がある。
それに基づいて世の中を変えていけば社会をより良く合理的に設計・再構築できると彼らは考えています。設計主義的な思想は総じて、社会的な不平等や不公正の解消を重視し、そのために革命のような計画的かつ大胆な改革を実行すべきだと主張します。
設計主義の背景には、啓蒙思想や理性万能主義の影響が見られ、社会の欠陥を人間の意図と計画によって完全に修正できるという発想が見え隠れします。
そのため、もし社会に欠陥が発見された場合には、それを迅速に取り除くことは可能であり、いち早く理想的な社会を実現できるという前提に立っています。既存の制度や慣習が不合理であれば、これを全面的に否定し、新しい制度を一から設計することも辞さない。
その根底には社会を「白紙の状態」から設計できるという理想主義的な発想があるのです。
そのため設計主義的な思想においては、伝統をしばしば「非合理的な慣習」や「進歩の妨げ」と見なし、過去を尊重するよりも、現在の理性に基づいて新しい制度を構築することが優先されます。
中でもより過激な設計主義思想においては、伝統や経験に対して懐疑的であるどころかむしろ敵視して、過去を乗り越えるべき対象として決め付ける傾向さえあります。また、彼らは社会や制度は、理論的に正しいとされる計画に基づいて、一気に変革することが可能だと考えるため、しばしばトップダウン型の改革が支持されます。

上念司
経済評論家。リフレ派の論客として、『経済で読み解く日本史 全6巻』(飛鳥新社)、『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』(講談社+α新書) など著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中。