このように、保守思想とは単なる現状維持思考でもなければ、「昔に戻せ!」という復古主義でもありません。保守思想とは「伝統を基盤にしながらも、現実の課題に柔軟に対応し、社会の安定と繁栄を追求する思想」です。
つまり、歴史的な連続性を重視しつつも、時代の変化に応じた適応の必要性も理解する極めて現実的な思想なのです。
対極にある思想「設計主義」
では、保守思想の対極にある思想とはなんでしょう?左翼思想?リベラリズム?伊藤氏はそれらをすべてまとめて「設計主義」というカテゴリーでくくります。
保守と設計主義の相違点について、まずはその基盤となる人間観の決定的な違いから説明したいと思います。
保守思想において最も大事なことは「理性に対する懐疑」です。人間は「不完全で限界を持つ存在」であり、理性的である一方、感情的で過ちを犯しやすい存在です。
そして、そんな不完全な人間が集まって社会が形作られている。つまり、社会全体が理性的な判断をすることもあれば、一時的な感情で盛り上がって文字通り全員が間違う状況もあり得る。
残念ながら不完全な人間は神のように賢くはなく、一度も間違えず(無謬:むびゅう)に正解にたどり着くことはできません。
試行錯誤を重ねながら、漸進的な変化をしていくこと、そして一度答えを得たと思ったことでも、それが本当に正しいのかどうか常に振り返って検証していく必要があるのです。
伊藤氏が伝統や歴史の中で培われた知恵を重視する理由はまさにこれです。長い年月をかけ、試行錯誤を経て現在でも残っている社会制度や社会資本は、その淘汰を潜り抜けた時点で非常に重要な意味を持っている。