日々の暮らしの中で、ふと疑問に思うことはないだろうか。「この面は『表』か『裏』か…どっちなんだ?」その素朴な疑問を徹底調査するシリーズ。第一弾は、日本の食文化に深く根付き食卓に欠かせない昆布。だしを取り、煮物に入れ、おにぎりに巻く。この海藻に「表」と「裏」はあるのだろうか。
昆布の表裏をめぐる論争
昆布に表裏はあるのか…この素朴な疑問を街の人々に投げかけてみると、意見は見事に分かれた。
「表と裏?ないでしょ!」と断言する人がいる一方で、「あると思います!表の方が、たしかヌメリ気が多い」と自信満々の人も。

「白い粉が付いている方が裏で、キレイな方が表」という声や「日光が当たっている方が表かな」という推測も。果たして、真実はどちらなのだろうか。
“昆布博士”に聞いてみた
この疑問に終止符を打つべく訪ねたのは、福井大学。
研究室の扉を開けると、昆布をトランプタワーのように組み上げている人物が。
「海藻に恋して30年」という“昆布博士”こと江端弘樹先生だ。植物分類学を専門とし、北海道こんぶ研究会の理事も務める、まさに“昆布の伝道師”である。
その江端先生にさっそく、昆布に「表」と「裏」があるのかを尋ねると…
江端先生は少し考えた後、こう切り出した。
「むずかしいですね…一言では、ちょっと難しいですが、生物学的には表と裏はありません」
その理由はというと、コンブは水中でヒラヒラと生きており、両面が太陽の光を浴びる。陸上の植物のように、片面だけで光合成を行うわけではないため、「葉の表」という概念そのものが存在しないというのだ。
しかし…「コンブを収穫して干している漁師さんたちは『表と裏がある』とおっしゃっています」と続ける。

漁師たちは、乾きやすい方を太陽に向けて干す。その「乾きやすい面」こそが「表」と呼ばれているというのだ。
その秘密はコンブの構造にあった。中央にある一本の大きなくぼみ。その反対側には、2本の細い溝が走っている。
この溝には水がたまりやすく、乾きにくい。そこで漁師たちは、溝のない平らな面を「表」として太陽に向けて干すというのだ。
生き物としての機能的な表裏はないものの、それを収穫し、加工する人々の暮らしの知恵が、文化的な「表」と「裏」を生み出していたのだ。
福井は日本一の「昆布王国」だった
さらに、福井と昆布の驚くべき関係も明らかになった。
「最新の統計では、昆布の消費ランキングで、福井県が1位になりました」と江端先生。昆布の佃煮ランキングでも、福井県は堂々の1位だ。
江端先生は、その消費量を支えているのが「昆布巻き」だという。「他の地域では、おせち料理で昆布巻きを食べるだけなんですけど、福井県は年中、スーパーで売っていますよね。あれだけ食べていたら、そりゃ1位になるわなって感じです」と江端先生は分析する。
最後に、江端先生は全4長メートルにもなる昆布を広げ、全身で海藻への愛を表現してくれた。

※江端先生は2025年12月から、山口県の周南公立大学へ異動(転任)。
