関東から九州に移住し、有機農法で野菜づくりに情熱を傾ける男性がいる。こだわりの根底には、子供たちに喜んでもらいたいというシンプルな思いがある。
関東から長崎へ移住
長崎県雲仙市瑞穂町(みずほちょう)の農家、津村義和さん(46)。
もともと茨城県に住んでいたが、妻・奈緒美さんの実家が雲仙市に近い諫早市にあることや、農業イベントで雲仙市役所の人と出会ったことをきっかけに、2018年に移住し、農業を始めた。
約1.5haの畑で農薬や化学肥料、除草剤を使わない有機農法で年間100種類以上の野菜を育てている。
珍しい品種がずらり
津村さんの農園には、スーパーマーケットなどであまり見ない野菜がたくさん栽培されている。
小松菜の仲間「ターサイ」は、まるで花びらが広がったような美しい形と濃い緑色が特徴だ。
一般市場には流通しにくい珍しい京野菜「伏見寒咲花菜(ふしみかんざきはなな)」も栽培している。
つぼみも葉も茎も生のまま食べられる菜の花「高菜苔(こうさいたい)」、栽培が難しい「山東菜(さんとうさい)」、夏には「クリームピーマン」、「緑なす」など、珍しい野菜ばかりだ。
肥料が多いと香りがしない…独自の理論で育てる野菜
津村さんの農園は平成新山や有明海が臨める場所にあり、海や山からの風が吹いて風通しがいいため虫がつきにくく、冬場でも気候が安定している。
土が粘土質でじゃがいもやブロッコリーなどを育てている人が多い中、津村さんは工夫次第ではどんな野菜でも育つと話す。
津村さんは「肥料を強めに入れると色は濃くなるけど、香りがしなくなって苦みが出てくる」と話す。土の中がどうなっているか「見えない世界」を想像し、イメージを巡らせて野菜にストレスを与えない方法を常に考え、実践しているのだ。
独自に研究・実践するスタイルを、津村さんは「勝手に“津村理論”を構築している」と笑って話す。
医薬品研究から有機農業へ
強い探求心と独自の理論で農業と向き合う津村さん。もともと農薬や医薬品の研究員だった。
医薬品・農薬の効果や安全性を調べる仕事をしていたが、子供の誕生をきっかけに「農業」に強い関心を持つようになった。
加工物・化学薬品はいい面だけでなく副作用もある。薬で身体を守るより、食べる物で土台を作ることに興味がシフトし、「自分で作ってみよう」と、農家への転身を決めた。
味のジャッジは2人の娘
野菜の味をジャッジするのは、津村さんの2人の娘だ。
農業を始めて1年目。津村さんが作った小松菜を子供が吐き出したことがあった。津村さんは「子供が食べてくれない野菜を作っても意味がない」と思い、それ以来、子供たちがおいしいと言ってくれる野菜作りを意識するようになった。
野菜の味に厳しい娘たちのおやつは、もっぱら“採れたての野菜”だ。この日のおやつは赤カブの一種「もものすけ」。甘さと肉質の柔らかさから「フルーツカブ」と呼ばれている品種だ。
父が作る野菜を、「おいしい」とパクパク食べる次女の咲羽さん。
長女の風花さんに好きな野菜を聞くと「神田四葉胡瓜(かんだすうようきゅうり)が好き」と、単なる「キュウリ」ではなく「品種名」が返ってきた。
「一番近くにリアクションしてくれる人がいるので、モチベーションは上がりますよね」と津村さん。子供たちの「おいしい」が、津村さんの原動力だ。
個性的な野菜が生むファンの輪
津村さんの野菜には、少しずつファンが増えている。
長崎市内にある食料品店「グリーングロッサリーストア」。ここは県内外の20の契約農家が栽培した有機野菜を販売している。津村さんの野菜も、毎週水曜日に店頭に並ぶ。
つむら農園の野菜を購入したことがある買い物客は「色んな野菜をカットしているものの中に津村さんの野菜も入っていて、子供が食べてくれるようになった。普通の野菜よりおいしいと感じるし、農薬を使っていないから安心だと思って選んでいる」と話す。
高橋将也オーナーは、津村さんが作る野菜を「食べやすくて、丁寧さが伝わってくる野菜だ」と評価する。「津村さんのだったら面白そう」と、新しい品種が入ったら買っていく津村さんファンのお客さんもいるそうだ。
農業の楽しさを伝えるこれからの夢
農業を始めて7年。津村さんのさらなる夢は、農園を開放し、多くの人に農業の楽しさを知ってもらうイベントの開催だ。
津村さんは「農作業するだけではなく、多くの人に泥に触れ、野菜を見て葉っぱがきれいだなと感じる感性を磨いてほしい。虫の動きで天気を知ることができたり、自然と触れ合える魅力を発信していきたい」と話す。
有機農法は露地栽培のため天候に左右され、継続していくのが難しいと言われている。しかし津村さんは「農業はイマジネーション、想像力だ」と話し、持ち前の探究心と根気強さで、“津村流”の有機農法を続けていく。
子供たちの「おいしい」を力に農業体験もできるイベント「農楽会」は、3月から参加者の募集が始まる。子どもたちの「おいしい」の笑顔を力に変えて、津村さんが農業に情熱を注ぐ日々は今日も続く。
(テレビ長崎)
