昭和のぬくもりを感じる懐かしい場所やものを取り上げるシリーズ「ザ・昭和」。今回は肌寒い季節に恋しくなる“温泉”。レトロな町並みと地域の人々のあたたかい人情が今なお残る、鹿児島県薩摩川内市の「川内高城温泉」を訪ねた。
800年の歴史を持つ名湯は西郷さんも愛した
まるで昭和にタイムスリップしたかのように、歴史を感じる木造の建物が並ぶ川内高城温泉。薩摩川内市北部の静かな山あいにあり、その歴史は800年以上前の鎌倉時代にまでさかのぼる。明治維新の立役者・西郷隆盛も愛した湯として知られるこちらは昭和の時代、長期間滞在しながら温泉につかって疲れを癒やす湯治場として多くの人々が訪れたという。
タイル張りの風情漂う浴槽には、熱いお湯が注がれ、湯の花が多く浮いている。泉質は単純硫黄泉のなめらかな肌触りが特徴で、日本の名湯百選にも選ばれている。現在は8件の宿が200円から400円ほどで入浴できる立ち寄り湯として営業している。
「毎日来ます。決まり文句みたいだけど最高です。よそから来る人もここの泉質は最高だと」と、常連の温泉客は満足げに話す。
昭和の記憶を語る地元の人々
この地で生まれ育った御幸敏雄さんは、長年この通りを見てきた人物だ。「昔は大繁盛ですよ、どこも湯治場でね。何家族も同じ部屋でみんな仲良くなって、一つの家族みたい。鍋や釜と布団も持ち込んで」と、昭和時代のにぎわいを懐かしそうに語る。
御幸さんの案内で訪れたのは、雑貨や食品を扱う「石原商店」。店主の石原ヨツエさん手作りの漬物や卵焼きが並ぶ店には、地元の人たちが頻繁に訪れる。店内では鹿児島弁の楽しい会話が飛び交っている。
石原さんは1年前に交通事故でけがをしたことがきっかけで、一度は店を閉めようと考えたという。しかし店を続けることを決めた理由には、地域への強い思いがあった。「店を閉めようかなと思ったけど、真ん中だから、開けとかないと。通りが寂しいと言われるから売れなくても開けている」と石原さんは語る。
店内には郷土芸能で使われるわらじや、あく巻き用の竹の皮など、レトロな雰囲気にぴったりの珍しい商品も並ぶ。

土曜限定 400円の炭火焼きはすぐ完売の人気商品
温泉街の先へ進むとモクモクと煙が立ち上り、香ばしい香りが漂ってくる。その正体は、毎週土曜日のみ営業の「焼き鳥せっちゃん」で焼かれる炭火焼きの煙だった。
地元に住む上床節子さんが作る鳥の手羽先と豚足の炭火焼きは、味付けはシンプルに塩こしょうだけ。手羽先も豚足もそれぞれ1パック400円と、現代ではありがたい値段だ。早ければ昼前に完売するほどの人気を誇る地元グルメとなっている。
「噛んだときに、お肉のおいしさが口の中に来ておいしいです」「塩こしょうの味がしっかり付いている」「炭火焼きだから、普通に焼くより全然おいしい。食べてみませんか?」と、購入した人々は口々に満足の声を上げる。
風情ある町並みの中に小川のせせらぎが聞こえ、ゆったりとした時間が流れる川内高城温泉。お湯だけでなく、人情の温かさにも触れられる昭和の風景が、今もなお息づいている。
