鹿児島県は「温泉大国」として知られているが、大隅半島の垂水市では温泉を入浴だけでなく「飲み水」として親しんできた独自の文化がある。現在、市内には9社もの温泉水製造販売会社が存在し、地域の代表的な産業となっている。
清らかな水湧き出る「垂水」 掘る場所で異なる温泉水の成分
「垂水(たるみず)市」。この地名の由来は諸説あるものの、シラス台地から水晶のように清らかな水が湧き出ていたことに由来するとされている。
垂水市水産商工観光課の葛迫洋さんによると、「掘っている場所も違うので、成分はかなり違いがあるが好みで『この温泉が好き』とか皆さん言っている。飲み比べてもらうのが一番」と語る。市は温泉水の販売所マップも作成しており、様々な味わいや成分を持つ温泉水を飲み比べることができる。
建設業から始まった温泉水ビジネス
垂水市で温泉水ビジネスが始まったのは1986年ごろだという。市水産商工観光課の葛迫さんは「当時、建設業者が『何か違うことができないか』と、温泉水を掘って販売用にした」と説明する。実際に、現在温泉水を販売する9社のうち4社は建設会社も営んでいる。
「垂水温泉鶴田」もそんな会社の一つだ。源泉の場所を見つけたのは垂水の地層に詳しかった先々代だという。地下約800メートル(東京スカイツリーより深い)から約48℃の温泉が湧き出している。

同社が温泉を発掘したのは1992年。当初は近所の人が自由に温泉水を持ち帰れるように無料開放していたが、「行列に並ばなくてもいいように売ってほしい」「くみに行けないので売ってほしい」という声に応える形で商品化に至った。
特徴的な成分と多様な楽しみ方
品質保証グループリーダー・福岡孝治さんは自社の温泉水の特徴について「シリカ、水溶性のゲルマニウムが含まれていて、のどごしも良く、口に含んだとき甘みを感じる。直接飲むだけではなく、コーヒーやお茶、だしをとっても非常においしくなる」と語る。
源泉から湧き出た温泉は、成分が変化しないよう沸騰しないギリギリの90℃でゆっくり殺菌されてボトルに詰められる。料亭などからも引き合いがあるという。

世界に広がる垂水の温泉水
需要の高まりを受け、工場を増設する企業も出てきている。「温泉水99」を販売するエスオーシーは、口コミサイトでの人気の高まりを受けて第3工場を建設。さらに東南アジアへの輸出強化も計画しており、2026年1月からはタイ国内での販売を予定している。
同社の草間茂行社長は「外国の皆さんも『おいしい』と言っていただき、カンボジアでも非常にたくさん需要があって、毎月、定期的に40フィートのコンテナで注文がある。これから相当、外国でも輸出が期待できる」と展望を語る。
垂水が誇る特産品である飲む温泉水は、市民だけでなく全国に、そして世界へと広がっている。温泉というと入浴を思い浮かべがちだが、飲んでその味わいを楽しむという新たな温泉文化も体験してみてはいかがだろうか。
(映像:「温泉は飲み物です」 鹿児島・垂水市 地域を代表する産業に 温泉水の今)
