食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「ナスと豆豉炒め」。

両国・北斎通りにある中国料理店「蜀食成都」を訪れ、ナスと独特の風味を持つ豆鼓が絡み合い、香ばしい香りとコクが広がる一皿を紹介。26年前に来日し、その後日本国籍を取得した四川省成都出身の料理人、西川忠治さんの歴史にも迫る。

四川料理がリーズナブル!両国の中国料理店

植野さんがやってきたのはJR総武線と大江戸線が通る、両国。大相撲の聖地・両国国技館が広く知られているが、世界的に有名な浮世絵師「葛飾北斎」生誕の地でもある。そのため両国の街には、北斎の偉業を讃える施設が点在。

今回、訪ねる店はそんな北斎の生誕地からほど近い場所にある。

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大江戸線両国駅から徒歩2分、北斎通りに店を構えるのが中国料理店「蜀食成都」。山椒や唐辛子を効かせた、いわゆる「辛い」ことで有名な四川料理がリーズナブルに味わえると評判の店だ。

広々とした店内は一階と二階で80席あり、近隣の職場で働くサラリーマンでランチタイムは満員に。場所柄、相撲関係者の宴会場所としても重宝され、元関脇隠、岐の海関は通い始めて16年の常連だという。

四川の作りかたそのまま、本場の味

オーナー兼料理人の西川忠治さんの出身は、中国西部四川省の中心地・成都市。自然豊かな美食の都としても知られている。成都で店を経営したのち、26年前に日本へやってきた。現在両国で2店舗を営業し、「美味しい四川料理を届けていきたい」と日本の国籍も取得した。

そんな父のもとで最近働き始めたのが、日本育ちの息子ロンシャオさん。店の後継者となるべく、現在料理修業中の身でもある。

蜀食成都が提供する料理は、日本人の舌に合わせることなく本場の作り方そのまま。四川料理を代表する麻婆豆腐や回鍋肉、ラー油をたっぷり使ったよだれ鶏や担々麺など、どれも「麻(しびれる辛さ)」と「辣(とうがらしの辛さ)」の際立った、本場ならではの奥深い辛さが特徴的。

辛さの中にあるうま味や香り、そんな絶品料理を心ゆくまで楽しめる店だ。

中学生で料理の道に目覚めて

西川さんは、料理人だった父親の影響で15歳の時に料理の道を志したという。北京の四川料理店でも経験を積み、23歳で故郷に戻って始めた店は大繁盛する。そんなある日、姉の知人の話で日本行きのチャンスが舞い込んだ。

「香川県の丸亀市(の四川料理店で)3年半仕事していた」と西川さん。「最初の頃は大変です。仕事終わったら12時くらい、家で2時間ぐらい日本語の勉強」と来日当時の苦労を話した。

結婚して子供もいた西川さんは単身赴任で日本に。その後、友人のツテで上京し、墨田区向島の中国料理店で働いたのち、家族全員を日本へ呼び寄せ、2008年に両国で念願の1店舗目となる「楽蜀坊」を開店。2010年には蜀食成都をオープンした。日本の良さを聞かれると、「日本人は優しいと思う、街も綺麗」と西川さん。両国にずっと住み続けたいと語った。

現在息子のロンシャオさんが二代目となるべく修業中。「1日でも早く鍋を振りたい」それがロンシャオさんの目標だ。父親の印象を聞かれると「仕事人過ぎて、ひたすら現場に来る」とロンシャオさん。西川さんは「休みの日も店の事を考えている」と笑顔で返した。息子が一人前になったら、田舎でのんびり暮らすのが夢で今はその日を楽しみに、親子で働いている。

本日のお目当て、蜀食成都の「ナスと豆豉炒め」。

一口食べた植野さんは「豆豉の深い旨味がナスの柔らかい甘みと合う、ナスの良い所が豆豉の香りで引き出されている」と絶賛した。

蜀食成都「ナスと豆豉炒め」のレシピを紹介する。