須坂市(長野県)の三木正夫市長は2025年最後の記者会見でふるさと納税返礼品の産地偽装問題を振り返り「反省の上にたって取り組みを進める」と語った。信頼回復への取り組みを進めているが、問題の余波は、公共事業や市職員の給与などにも及んでいて、市民や市職員の不満はくすぶっている。
産地偽装を把握後も継続
12月18日、今年最後の記者会見に臨んだ須坂市の三木正夫市長。この一年を「業者を信用してしまったために混在という説明を信じてしまった。この点は反省している。今後は反省の上に立ってこれから何をしていくかが非常に大切」と振り返った。
「反省」としたのは、ふるさと納税返礼品をめぐる産地偽装問題だ。
須坂市の返礼品を取り扱っていた和歌山県の業者が「山形県産」などが混在したシャインマスカットを「須坂市産」として市に販売していた問題。
市は業者から報告を受け混在を把握した後も、3カ月ほど寄付の受け付けを継続していた。
三木市長は3月に開かれた生産者向けの説明会で「農林水産省の調査が入っているということで調査結果を待つと。今後、産地の偽装については、グルメ市場(業者)でやらないということでしたので、そのまま継続してもいいんじゃないかと、私の認識不足だったと反省しています」と述べていた。
「ふるさと納税」制度から除外
事態を重く見た総務省は須坂市をふるさと納税制度の対象から除外。2年間、寄付を受けることができなくなった。
村上誠一郎総務大臣(当時)は「ふるさと納税制度に対する信頼を損ないかねないものであり、由々しき事態であると考え、厳正なる対応を行った」と述べた。
須坂市は、返礼品のシャインマスカットが人気で、2024年度も県内トップの約47億円を集めていた。
税収が大幅減…財政運営に影響
除外により、税収が大幅に減ることになり財政運営にも影響が出ている。
市は、経費節減や補助金などの交付基準の見直しなどを進める方針を示していて、すでに2025年度予定していた31の公共事業の実施を先送りした。
また、12月の市議会にメセナホールや須坂市動物園など26の市有施設の使用料引き上げの条例改正案を提出し、可決された。
須坂市動物園は、これまで大人1人200円だった入園料が、倍の400円になる。
市民は「改めて、やっぱりどうにかならなかったのかと思う。事業や施設が減るとなるとやっぱり困る」、「施設の削減とかいろいろやってますよね、今。2年間、別に基金崩しても借金しても従来通りやれればいいと思う」と話した。
三木市長は、使用料の引き上げについては、「以前から検討していた」として、ふるさと納税問題の余波ではないと否定している。
市長は「必要な事業に絞って事業を行っていきたい。ふるさと納税の財源を使って相当な市民サービスの充実を図ってきた。市民にとって何が重要か選択した結果であります」と述べた。
市職員の給与引き上げは見送りへ
影響は、市職員にも及んでいる。
市によると、人事院の勧告に準じた職員給与の引き上げについて、2025年度は見合わせる方針を労働組合に伝え、交渉中だという。
また、事業の先送りなどにより、2026年度の会計年度任用職員の削減も見込まれるとしている。
三木市長は「一番は申し訳ないと思っています。職員は一生懸命仕事をしていますし、ベースアップが見送りになったことは大変申し訳なく思っています」と述べた。
「納得いかない」市職員から不満
先日、現役の市職員がNBSの取材に応じた。
市職員は「引き上げ見合わせ方針に納得はいってないですけど、財源がない以上、仕方ないのかな。お金の話、人が削減される話になってきてからは、やっぱり自分たちのことだなと思いました」と語った。
問題への対応や、職員への説明についても不満を感じていると言う。
三木市長と中沢副市長は問題を受けて、給料などを減額。また、担当していた職員は減給や戒告の懲戒処分を受けた。
市職員は「対象となる職員に対しての処分の内容だったり、スピードも遅かったという気がするし、本当にそれでおしまいでいいのかというところもあったりするので。ニュースで知るのが初めてというのが多かったので、しっかり職員側にも説明が欲しかった。職員が納得いく説明があったかというと少ないかなと思う」と話した。
他の市職員からも、「給与引き上げの見合わせという前例をつくってしまったことは良くない」「関係した職員に対しては、何てことをしてくれたんだという不満がある」「市民にも影響を与えている中で、致し方ない」といった声が聞かれた。
「ふるさと納税に頼らない財政を」
12月の市議会の最終日には、議員2人から、市長に対する不信任決議案が提出された。
責任の所在を明確にし、新しい体制での市政運営を求めたものだが、議案は、反対多数で否決。
三木市長は「厳しい財政状況だが、将来に向けてきちっと財政運営できるよう“真の筋肉体質”にしていく必要がある。一番大事なのは、ふるさと納税に頼らない財政。一時的なものに使うのではなくて将来的な投資に使う」と述べ、改めて財政健全化と信頼回復に臨む姿勢を示した。
