食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
今回は、落語家・九代林家正蔵さんとその弟子、林家つる子さんをゲストに迎えた特別編。祖父に七代目・林家正蔵、父に初代・林家三平を持つ、正蔵さん。親子三代の真打は史上初。
落語協会の副会長をつとめながら、年間600席もの高座に上がり続ける古典落語の名人。大のお酒好きで一人で飲み歩くのが大好きな62歳だ。
普段飲み歩く銀座、上野で江戸っ子らしく粋に飲み歩き。父、初代林家三平との知られざるエピソードにも迫る。
銀座の蕎麦店「泰明庵」
最初に向かったのは、中央区の銀座駅から徒歩3分の場所。師匠が40年以上通うという蕎麦店、「泰明庵」。気取らない雰囲気とメニューの豊富さが気に入り、長年通い続けているそう。

厳選された蕎麦粉で打った定番のざるそばのつゆは、かつおの旨みをしっかり効かせた、濃いめの味わい。熱々の天ぷらそばは大ぶりのエビが2本も。

看板に「そば・軽食」とあるようにお酒が進むそば前も充実している。板わさ、だし巻き卵、その日仕入れた新鮮なお刺身もあり、粋な蕎麦飲みが楽しめる店だ。
師匠と弟子、父と娘のような関係
九代林家正蔵さんは、戦前から活躍した伝説の落語家である七代目林家正蔵を祖父に持ち、父は「どうもすいません」など数々のギャグで一世を風靡(ふうび)し、テレビの司会者としても活躍した「昭和の爆笑王」初代林家三平。

そんな芸能一家で生まれ育った九代林家正蔵さんは、1978年に前座名「こぶ平」として父に弟子入りすると、わずか9年というスピード出世で真打に昇進した。

『植野食堂』でナレーションをつとめる九代正蔵の6番弟子、林家つる子さんの生まれは、群馬県高崎市。小学5年生から演劇を始め、高校時代も演劇部で活動。大学に進学後、演劇サークルに入るつもりが半ば強引に落研に誘われ、いつの間にやら落語にどハマり。
その後、縁がつながり師匠のもとに弟子入りが叶い、2024年、真打に昇進した。

植野さんから師匠との関係を聞かれ、つる子さんは「毎日前座修行の時、朝ごはんを食べていたので家族のような、お父さんのような感覚…」と話すと、師匠は「待てよ、俺は産んだ覚えはないよ」と突っ込むも、師匠は「可愛かったよ。すごくご両親に愛されていた子で、どこか娘みたいな感じがあった」と語った。