食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「まぐろぬた」。東京・表参道の小料理屋「青山ぼこい」を再び訪れ、からし酢味噌の優しい辛みとコクが、新鮮なまぐろの旨みを引き立てる繊細な技が光る一皿を紹介。母が始めた店を、70歳目前の兄弟が守り続けている名店の5年前との変化にも迫る。
母の思いを受け継ぐ小料理屋
植野さんがやってきたのは、多くのブランドショップが建ち並ぶ表参道。目的の店があるのは、駅から徒歩約8分の場所。骨董通りに面したビルの2階にある小料理屋「青山ぼこい」だ。
カウンターとテーブル席を合わせ14席の店は、きらびやかな町の騒がしさとは真逆で、木のぬくもりが感じられるあたたかな雰囲気。

調理を担当するのが弟の秋男さん、その横で兄の夏彦さんがあうんの呼吸でサポート。もともとは1968年、2人の母・宏子さんが“おにぎりとお茶漬けを楽しめる店”として開店。ぼこい(母恋)という名前にもあるように、母の思いを引き継いだ店で、料理はどれも家庭的で気取らないもの。

ショーケースを見ながらリクエストもできたり、季節ごとの旬の食材も楽しめる。桜海老と季節の野菜を合わせた「かき揚げ」やだしが染みた「茄子揚げ浸し」、「鳥立田揚げ」など酒を誘うメニューが充実している。

素朴な味わいながらもまっすぐおいしい、表参道では貴重な酒飲みの胃袋をつかむ店だ。
思ったより安かった、美味しかった!
前回訪れてから5年が経過。店の変化について秋男さんは、「コロナがあけてお客さんも戻ってきたし、営業時間も多少は長くなった」「僕も70歳近くなってきたんでそろそろ引退したい」と話す。
夏彦さんも「2人とも体が動く間は(頑張って)やっていかないと」と語った。

現在、兄の夏彦さんは69歳、弟の秋男さんは68歳と、70歳目前のふたり。体への負担を考え、営業時間を見直し、1時間早く始めて、早く終わるようにしている。仕入れも、昔はオートバイで築地や豊洲まで走っていたという2人。今ではほとんどの食材をネットで注文し、無理なく続けられるよう、働き方も少しずつ変えている。

植野さんから店の味を守るための工夫を聞かれると秋男さんは「忙しくても手を抜かない。出るものは、いつも同じものが出るように心がけている」と語る。
夏彦さんも「とにかくお客さんが喜んでくれたら。「母も言っていたけど、帰る時に思ったより安かった、思ったより美味しかったと帰ってくれたら」と話した。
母の思いを継ぎ、兄弟で紡いできたその歴史は店が愛されてきた証拠。体に気を付けて、これからも頑張って欲しい。

本日のお目当て、青山ぼこいの「まぐろぬた」。
一口食べた植野さんは「食べるのがもったいないくらいの美しさ。まぐろのおいしさはもちろん、それぞれの素材の美味しさがぬた味噌で合わさり口の中で融合している。“国宝”並みの美しさと味わい」と感動していた。
青山ぼこい「まぐろぬた」レシピを紹介する。
