食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。 

植野さんが紹介するのは「豚キムチチーズ春巻き」。

駒澤大学駅近くにある居酒屋「おさだ」を訪れ、パリッと香ばしい食感とチーズ、キムチの絶妙なバランスを味わえる店の看板メニューを紹介。

フランス料理出身の店主が作る繊細な和食料理と、理想とする居酒屋像にも迫る。

学生でにぎわう街にある和食の居酒屋

植野さんがやってきたのは渋谷から約14分、都心へのアクセスも抜群の東急田園都市線「駒沢大学駅」。駅名の通り、駒澤大学の最寄り駅として知られ、学生たちで賑わうこの街は手頃で美味しい店やおしゃれなカフェも多く、若者に人気のエリアだ。

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そんな駒澤大学駅から徒歩3分の場所にある「おさだ」の開店は2022年。

店内は中央にオープンキッチンがあり、それを囲むようにカウンター席が並ぶ。店の奥には、靴を脱いでくつろげる和室のテーブル席があるなど、ひとりでも家族や友だちとでも、心地よい時間を過ごせる。

店内に飾られた器は陶芸家の姉の作品で、店で使う食器を料理に合わせて作ってもらっているそう。

食べたことある物をちゃんと美味しく

カウンター越しに見える、店主・長田悠助さんの表情は真剣そのもの。

「みんな食べたことある物がちゃんと美味しいというのが目標」「おかわりしてもらえる時は嬉しい」と長田さん。

料理にしっかり向き合うことを何より大切にしてきた店主。その職人気質が生み出すのは、さっぱりとした和風だしでグツグツ煮込まれた「肉豆腐」や、小麦粉・かたくり粉・米粉、3種類の粉を使い、外はカリカリ中はジューシーに揚げた「鶏の唐揚げ」。

そして「ちくわの磯辺揚げ」など、酒飲みにはたまらない、安くておいしいメニューの数々。

常連客も「週に1回来ます。カウンターで見ているのが好き、細かいことをやっているのを見るのが楽しい」「旬のものをこだわって出している、ご主人のセンスに感謝」「どの料理も美味しい、また何回も来たくなる感じ」と絶賛の声。

親しみやすいメニューがどれもおいしい、まさに行きつけにしたくなる店だ。

屋号は実家の焼き鳥屋、器は姉の作品

植野さんから飲食業界を志した経緯を聞かれると長田さんは「父親がお店をやっていたので、父親の店を継ぐのを目標に飲食店に入って、最初はフランス料理から始めました。父親は脱サラして焼き鳥屋をやっていましたが、難しいことをやってみたいと思ってフレンチに挑戦してみて…」と振り返る。

調理師学校を卒業後、最初の修業先はフランス料理店だった長田さん。そこで4年間経験を積んだが、格式高いイメージが自分には合わないと感じ、和食の道へ。

「自分の知っている料理をまず出すという時点で(和食に)親しみがある。(親に連れられ)小さい頃から居酒屋へ行っていたので、(両親も居酒屋の方が)喜ぶと思った」と居酒屋をはじめた経緯を明かした。

10年前に閉店した実家の焼き鳥店の屋号を引継ぎ自分の店「おさだ」を開店。

長田さんが店で使っているほとんどの器は、陶芸家の姉の作品。

「自分が使いたい皿のサイズや“こういうのを使いたい”と姉に伝えて、それを作ってもらい店で使うことが出来るようになったので嬉しい」「きょうだい3人で姉の器を見ながら、僕の料理を食べてもらうイベントも年に1回やっています」と長田さん。

子供の頃に体験した「幸せな居酒屋の光景」。その原点を胸に、姉の器とともに料理を紡ぐ長田さん。家族のぬくもりと兄弟の絆が息づく、素敵な店だ。

本日のお目当て、おさだの「豚キムチチーズ春巻き」。  

一口食べた植野さんは「程良いチーズのコクと香り、味わいが全体を美味しく繋いでいる」と称賛。