血液の赤い成分である「赤血球」が壊れてしまう、珍しい病気がある。「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)」だ。

赤血球が壊れると、コーラ色の尿が出る、貧血が起こる、血栓ができやすくなるなど、様々な症状が出る場合がある。

難病に指定されているが、現在では研究が進み、適切な治療を受ければ症状をコントロールできるようになっている。

この記事では、発作性夜間ヘモグロビン尿症のメカニズムや症状、治療などを解説する。

(この記事は中外製薬のPNH情報サイト「おしえてPNHのコト」に基づいています)

発症原因は不明…PNHとは?

「発作性夜間ヘモグロビン尿症」(以下、PNH)は、血球のもとになる造血幹細胞と呼ばれる細胞が突然変異を起こし、異常な赤血球(PNHタイプ赤血球)がつくられることにより、赤血球が壊れる病気。

赤血球は、真ん中にくぼみがある円盤型をした細胞のこと。

その名のとおり、赤い色をしている。これは、赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質が赤い色素をもっているため。ヘモグロビンは体に酸素を送り届けるとともに、体の中でつくられた二酸化炭素を肺に持ち帰るという、生命を維持するための大切な役割を持っている。

赤血球(ヘモグロビン)の量が減ると、体内に十分な量の酸素を行き渡らせることができなくなる。すると、体のだるさ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れといった貧血の症状が現れることがある。

そんな赤血球が“壊れる”と、どうなるのか。

PNHは、赤血球を作る造血幹細胞が突然変異してしまう病気だ。すると、血液中の免疫にかかわるタンパク質である「補体」の攻撃によって、赤血球が壊されてしまう。

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補体は、病原体が体内に侵入すると活性化し、病原体の細胞膜に穴を空けて破壊して、体を守る働きをする。

この時、補体は赤血球も同様に攻撃するが、通常は赤血球の表面にある「補体制御タンパク」が補体の攻撃から赤血球を守っている。

ところがPNHの人の場合、突然変異により補体制御タンパクがないため、補体の攻撃から守れず、赤血球に穴が空き、破壊されてしまう。これを「溶血」と呼ぶ。

これがPNHのメカニズムだ。

この病気は遺伝性のものではなく、発症する原因はわかっておらず、年齢・性別にも偏りはない。なお、現在国内には1264人の患者がいる。(厚生労働省令和6年度衛生行政報告例)

PNHの症状は?コーラ色の尿が出ることも

溶血が起こると、赤血球が壊れ、ヘモグロビンが血液中や尿中に出てしまい、様々な症状が現れる。人によって現れる症状は異なるが、代表的なものを紹介する。

【ヘモグロビン尿】
患者の三分の一程度(※Nishimura J, et al. Medicine (Baltimore). 2004; 83: 193-207.)に現れるとされているのは、「ヘモグロビン尿」だ。赤血球が壊れヘモグロビンが尿中に大量に出てしまい、コーラ色になる。

PNH(発作性=paroxysmal 夜間=nocturnal ヘモグロビン尿症=hemoglobinuria)という病名の由来になっている。 ヘモグロビン尿の症状の多くは朝一番に起こることからこの名前が付けられている。なお、血尿とは異なる点に注意しておきたい。

【貧血】
赤血球が壊れてヘモグロビンが体内に十分な量の酸素を行き渡らせることができなくなるため、多くのPNH患者に貧血の症状が見られる。

PNHはゆっくり進行するため貧血も徐々に悪化し、自覚症状がない人も多い。 日常的な体のだるさ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れなどがある場合は貧血にともなう症状の可能性がある。

【黄疸(おうだん)、胆石症】
ヘモグロビンの一部は、肝臓で代謝されて黄色い色素(ビリルビン)になる。PNH患者は溶血によって赤血球が大量に破壊されるため、血液中のビリルビンの量が増えてしまい、黄疸が現れることがある。

また、肝臓でつくられる胆汁(たんじゅう)という消化液の成分にはビリルビンが含まれており、溶血によりビリルビンの量が増えることで、 胆汁の成分のバランスが崩れて胆石ができやすくなると考えられている。

【血栓症】
PNHは様々な合併症を引き起こす場合もある。中でも命にかかわるため注意が必要なのが「血栓症」だ。PNH患者の体内では、血管のなかに血のかたまり(血栓)の発生を抑える役割がある一酸化窒素の量が減っているため、血栓ができやすくなってしまう。

他にも、慢性腎臓病・急性腎障害、肺高血圧症、嚥下(えんげ)困難・嚥下痛、男性機能の悩みや腹痛などが起こることもある。

溶血発作を起こさないための生活と治療

PNH患者は、溶血発作を起こさないために日常生活でも注意が必要となる。溶血発作を起こさないためには、補体を活性化させないように過ごさなければならない。

まず、感染症にかかると、免疫機能の一部である補体は活性化する。そのため、体調管理に気をつけ、感染症対策を忘れないようにしなければならない。

手術や抜歯を含む歯科治療を行った場合も補体を活性化させてしまう可能性がある。女性の場合、妊娠することで補体が活性化し、加えて血栓症のリスクも高まる。いずれの場合も主治医との相談が必要になる。

PNHは、遺伝子変異の影響によってPNHを起こすPNHタイプ赤血球がつくられ続けているため、症状をコントロールするためには、治療を続けていくことが必要である。

最も重要になるのが、溶血を抑えることだ。そのためには、活性化した補体を阻害して溶血を防ぐ働きがある「抗補体薬」や、溶血を抑えることが期待される「副腎皮質ステロイド薬」を用いる。貧血が強い場合は輸血を行うことも。

症状に合わせて、血栓症の予防・治療薬や、骨髄機能の低下を改善するための薬を用いる場合もある。

唯一の根治療法は造血幹細胞移植ですが、基本的には薬で症状をコントロールすることが難しい重症の患者さんの場合に検討する。

現在は、こうした薬などを用いて適切な治療を受けながら、仕事と治療を両立する患者もいる。治療によって体調が落ち着いていれば運動しても問題ない。また、症状を安定させることができたPNH患者が、妊娠・出産するケースも報告されるようになった。

様々な公的支援制度もある。

「難病医療費助成制度」「高額療養費制度」などの医療費助成制度を利用すると、医療費の負担が軽減できる可能性がある。難病の方を対象とした雇用支援も行われている。さらに、基準を満たしていれば障害年金を受け取ることもできる(2025年10月23日時点)。

理解を広げることが当事者の助けに

このように、PNHは適切な治療を行い、制度を利用することによって、治療と日常生活や仕事、妊娠出産との両立も可能になってきている。

ただ、珍しい病気で、しかも外見からはわかりづらい。そのため、この病気の存在を知り、特徴を正しく理解することが、当事者や家族に寄り添う第一歩となる。

2025年3月に創業100周年を迎えた中外製薬は、PNHなどの希少疾患の理解を広めるコンテンツを応援しています。

おしえてPNHのコト:
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/oshiete-pnh/
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