日鉄労組は組合費を返せ
春闘の集中回答日の13日、鉄鋼最大手の日本製鉄が、労働組合側のベア要求額である月額3万円を上回る、3万5000円で回答したというニュースを聞いて驚いた。
筆者が入社する前にフジテレビでも、組合の要求を上回る回答を会社がしたことがあるという「伝説」を聞いたことはあったが、実際に目にしたのは初めてだ。
この記事の画像(5枚)日鉄だけではない。自動車大手のスズキや非鉄大手の三井金属工業なども回答が労組側の要求を上回り、自動車、電機で満額回答が相次いだ。
岸田文雄首相はしきりに「賃金を上げろ」と言っているが、満額のみならず労組の要求以上に賃金が上がるなら労組はなくてもいいのではないか、と思ってしまった。少なくとも日鉄やスズキの組合員は組合幹部に「組合費を返せ」と言った方がいいかもしれない。
賃上げを聞いた岸田氏はよほど嬉しかったのだろう、この日開かれた政労使会議(政府、労組、経営側が話し合う場)の冒頭で、ニマーっと笑いながら「昨年を上回る力強い賃上げの流れができていることを心強く思う」と述べた。
だが、岸田氏をめぐる政局は笑ってばかりでもいられない。直近だと3月8日~11日に時事通信が行った世論調査では、内閣支持率が18%で自民党の政党支持率も18%。かろうじて政権は継続しているものの、とても解散できる数字ではない。
支持率は底打ったか?
ただ政治資金規正法違反で政治倫理審査会を開いているものの、この問題に対する岸田氏の対応に74%が「評価していない」と答えているにもかかわらず、内閣支持率も政党支持率も前月より1ポイント改善しているのは不思議だ。底を打ったのだろうか。
岸田氏は政倫審にサプライズ出席した後、予算案の衆院採決を強行して自然成立を決め、結果的に早期解散権を確保した。
賃上げは大手にはできても、材料高などから中小には難しいと言われてきたが、人手不足のため、中小も賃上げせざるを得ないのではないかとの見方もある。もしそれが実現すれば「岸田解散」の背中を押すことになる。
有権者の心が温まれば
株は「悲願」の4万円台に到達したが、「株を買うのは国民の10%しかおらず、庶民には関係ない」とメディアはよく言う。だが、NISA(小額投資非課税制度)の口座登録はすでに2000万を超えている。今や株をやる人は10%ではなく20%に近づいているのではないか。
賃上げの話に戻ると、物価高が落ち着くのに時間がかかっており、実質賃金がプラスになるのは秋になるだろうとの見方がある。まあそうやって経済の指標が良くなると有権者の心も「温かく」なるかもしれない。
そうであれば4月や6月の解散は無理でも、秋の総裁選の後なら解散できるかもしれない。ポスト岸田は石破茂、茂木敏充、高市早苗、上川陽子、河野太郎氏らが軸になるだろうが、帯に短したすきに長しだ。
もしかしたら、岸田氏続投のチャンスも十分にあるのではないか。
(執筆:フジテレビ報道局上席解説委員 平井文夫)