19日の解散会見の冒頭、「高市早苗が首相でいいのか、国民の皆さまに決めていただく」と述べた首相はドスが効いていてちょっとコワかった。
そして「過半数をたまわりましたら高市総理。そうでなければ野田総理か斎藤総理か」と述べて「中道改革連合」を立ち上げた立憲民主党の野田佳彦代表と公明党の斉藤哲夫代表が首相になる可能性を指摘したのは「うまい」と思った。
「私に総理を辞めろというなら野田さんか斎藤さんが総理になりますけど」と国民に選択を迫るやり方はエグいが迫力がある。過半数を取ることに進退をかけるというのも潔い。
“過半数”の意味
ただその「過半数」が日本維新の会も合わせた与党で過半数というのはやや疑問だ。与党過半数なら今でもギリギリある。そこに国民民主党が予算や高市首相が目指す「保守的な政策」にも賛成してくれそう、というのが現状だ。
その現状では満足できず、予算審議を後回しにして信を問うのなら、自民だけで過半数、あるいは与党で国会運営が安定する「安定多数」の244議席や「絶対安定多数」の261議席を勝敗ラインにするのが筋だろう。
ホントに政権選択選挙なのか
もう一つ気になったのは高市首相が「政権選択の選挙」と言っていたことだ。19日付の読売新聞にも「与野党2大勢力激突」という見出しで「衆院選の構図は自民党と新党・中道改革連合の対決が軸となる」と書いてあったが何か違うと思った。
というのは同日の朝日新聞に出ていた世論調査によると比例区の投票先は以下の通りだったのだ。
自民党 34%
日本維新の会 10%
国民民主党 10%
れいわ新選組 4%
共産党 3%
参政党 7%
日本保守党 2%
社民党 1%
チームみらい 2%
中道改革連合 9%
この数字を見る限り「国民の意識」は自民と中道改革連合による対決という構図にはなっていない。自民の34%が突出し、第2グループに10%の維新、同じく10%の国民、9%の中道、7%の参政の4党がひしめいている。
現有議席を比べると自民が196議席で中道が172議席なので確かに「2大勢力」なのだが、有権者の「気持ち」はもはや2大勢力ではないと思う。
公明が選挙協力先を自民から立憲民主に変えることで小選挙区では自民が苦戦するという指摘があるのだが、この世論調査の結果を見ると、とてもそうは思えないのだ。
中道改革連合の基本政策では、立憲民主党時代に「違憲部分の廃止」を掲げていた安保法制について「合憲」の立場に転換し、また「原発ゼロ社会の1日も早い実現」を謳っていたエネルギー政策については「将来的に原発に依存しない社会を目指す」に「反原発色」をトーンダウンさせた。
基本政策を読む限り中道改革連合の政策は文字通り「中道」である。
ただ立憲から中道に参加する有田芳生衆院議員はX(旧ツイッター)に「共通の目標を見つけ出すため、違いは一旦横に置いて、お互いを尊重しつつ、協力しよう」と投稿した。
これに対し野村修也・中央大教授は同じくXに「違いは一旦横に置いて、ということは選挙では中道(公明党)の支援を受けたいが当選後は党とは異なる意見で活動したということか」と指摘した上で、「これではまたバラバラで決められない旧民主党と同じになるだけ」と批判した。
リベラル票はいずこへ?
野村氏の指摘は鋭いのだが、私にはもっと気になることがある。それは中道改革連合が「中道」だとして、自民と維新の与党は「保守」を名乗っている。その場合これまで立憲民主に投票してきた「リベラル」の人たちはどこに投票すればいいのだろうか。つまり「原発ゼロ」「安保法制は違憲」を考える人たちだ。
立憲民主や公明より「左」である社民党、共産党、れいわ新撰組に入れるのか。ただ立憲民主とは随分政策は違う気もする。リベラル票は消えてしまうのか。
中道VS国民民主
それより国民民主も「中道」を名乗っているわけだから中道改革連合と国民民主が「中道」票を取り合うということになるだろう。「中道対決」だ。
立憲民主は昨年10月の首班指名の前に国民民主の玉木雄一郎代表を首班に立てるべく協議を行ったのだが、玉木氏の説明によると、「原発ゼロ」と「安保法制の違憲部分の廃止」をやめるよう求めたが立憲民主側はそれを飲まず破談になった。
それがなぜ3ヶ月後の公明との交渉では飲んだのか。おそらく高市政権が誕生し、高い支持率の中で解散を決断したため、このままでは選挙で惨敗し、党存亡の危機になるとの判断から苦渋の決断をしたのだろう。
立憲民主の野田佳彦代表は国民民主も「中道」に誘ったが即時に断られたという。野田氏は玉木氏に対して小選挙区で立憲民主の現職がいるところには候補を立てないよう要請した。
国民民主が新党と対決姿勢に
実はこれまで国民民主は口では立憲民主との対決を言ってはいたが、実際には立憲民主の現職がいるところには候補を立てず、ほぼ「棲み分け」を行っていたのだが、今回の新党結成を受けて「ガンガン立てる」ことに方針転換したとしている。
例えば昨年の参院選・東京選挙区で2人当選したのは国民民主だけだ。だから自民と立憲民主が一騎打ちしている選挙区に国民民主としては立てたいところなのだが連合は当然反対なので、国民民主がどこまで「ガンガン立てる」かが焦点だ。
「中道対決」だけでなく「保守対決」もある。高市政権の誕生で離れていった保守票が自民に戻ってきたと言われるが、朝日の調査を見る限り比例投票先の自民は石破政権時と変わらず、維新、参政党、日本保守党などは結構いい数字が出ている。
参政党の神谷宗幣代表は候補者擁立について「(他党で)政策が近い人のところは外そうと思う」と述べた。これは自民に配慮するという意味であり、実現すれば自民にはいい話だ。
中道対決・保守対決を制したものが…
私が「政権選択選挙」でないと思う理由は、たとえ中道改革連合が勝って第1党になっても単独過半数まではさすがに取れないだろうし、国民民主や他の野党が連携することは考えにくいので政権交代の可能性は低いからなのだ。
その場合、高市首相は退陣するが自民をはじめとする与党から新首相が選ばれるだろう。
「中道」「保守」票の行き先が今回の選挙を決める。国民民主と参政がどういう候補者の立て方をするかでおのずから結果は見えてくる。それによっては連立の形が変わることもある。「中道対決」「保守対決」を制した者がその主導権を握るだろう。
