プーチン大統領が犯した3つの誤算

ゼレンスキーはやはりチャーチルだった。

ウクライナ侵攻をめぐってロシアのプーチン大統領は次の3つの誤算を犯したとよく言われる。

ロシアのプーチン大統領
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①ウクライナ軍がこんなに強いとは知らなかったこと。

②ロシア軍がこんなに弱いとは知らなかったこと。

③ウクライナにウインストン・チャーチルが居るとは知らなかったこと。

中でも第二次世界大戦でドイツ空軍の猛爆撃の中、国民を鼓舞し勝利に導いたウインストン・チャーチル元英首相のように、ゼレンスキー大統領が首都キーウに留まり褐色のTシャツ姿で連日SNSで国民を鼓舞してウクライナの抵抗を導いたことは、プーチン大統領の最大の誤算だったかもしれない。

ウクライナのゼレンスキー大統領

ロシアだけでなくアメリカも同じ誤算

ところが、その誤算はロシアだけでなく米国も犯していたことが最近になって分かってきた。

ロシアの軍事侵攻が開始される数週間前、米国議会の非公式会議で情報当局に対し次のような質問があったという。

アメリカ国会議事堂

「ウォロディミル・ゼレンスキーは英国のウインストン・チャーチル型なのか、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ型なのか?」

つまりゼレンスキー大統領は歴史的抵抗を指揮できるのか、或いは(ガニ前大統領のように)逃避して政権を崩壊させるのかと議員たちは訊ねたのだ。

これに対して当局者は、ゼレンスキー大統領を過小評価する一方で、ロシア軍とプーチン大統領を過大評価する説明をしたとされる。

ロシアの軍事侵攻が始まると、米国は首都キーウの陥落も間近と見てゼレンスキー大統領に国外に逃避して亡命政権を樹立するよう勧めたが大統領は一言で拒絶した。

「今必要なのは逃亡用の車じゃない。武器をくれ」

大統領は軍事侵攻2日目の2月25日の夜、キーウの大統領官邸前に出て政権幹部と共に携帯の自撮りで国民に対するメッセージを撮ってSNSで公開した。

「みんなここに居ます。私たちの兵士たちもここに居ます。この国の市民もここに居ます。私たちはここに居て、私たちの独立と祖国を守っています。これからも続けます。祖国を防衛するものたちに栄光あれ。ウクライナに栄光あれ」

「みんなここに居ます」侵攻2日目に政権幹部と自撮りでメッセージを送ったゼレンスキー大統領(2月25日)

その100日後ゼレンスキー大統領は同じ場所で、しかし日中に再び同じ幹部と一緒に自撮りでメッセージを撮った。

「私たちはすでに100日間ウクライナを護ってきました。私たちは勝利します。ウクライナに栄光あれ。英雄たちに栄光あれ」

「100日間護ってきた」と同じ場所でメッセージを撮ったゼレンスキー大統領(6月3日)

第二次世界大戦の最中チャーチルは、ドイツ軍の爆撃の様子を首相官邸の屋上から眺めたりロンドン市内の防空壕を訪れて市民を激励したことを想起させるものだ。

「戦前に状況をもっと把握していれば、ウクライナに十分な支援ができたのではないか」

先月開かれた米上院軍事委員会でアンガス・キング議員(メイン州選出)はこう述べ、初期の想定の誤りを質した。

米国の情報当局はこうした批判を受けて、外国政府の戦闘意欲と能力を判断する方法の見直しをはじめたと5日のAP電は伝えた。

ウクライナ紛争の今後と、米国の支援のあり方もこの見直しの結果に左右されることになるとされるが、「ウクライナのチャーチル」のためなら米国も支援を惜しむことはないだろう。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎


アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。 NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。

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