「麻薬密輸船」最初の攻撃は民間機偽装の極秘航空機

アメリカはベネズエラへの軍事侵攻に先立ち、いわゆる「麻薬密輸船」への攻撃を行い、2025年末までに少なくとも35隻を撃沈し115人以上が死亡したと、アメリカ軍発表や主要メディアの集計で伝えられている。

2025年9月2日の「麻薬密輸船」攻撃(トランプ大統領のSNSより)
2025年9月2日の「麻薬密輸船」攻撃(トランプ大統領のSNSより)
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その初回の攻撃が2025年9月2日にカリブ海で行われた際、アメリカ軍が使ったのが「民間機」に偽装した極秘航空機であったことが、議会に対する国防総省の非公開説明で明らかになったと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。
12日の同紙電子版がまず伝え、その後ワシントン・ポスト紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙なども後追いした。

Redditに投稿された航空機の写真
Redditに投稿された航空機の写真

それらの情報を総合すると、問題の航空機は有人機で、機体は軍用のグレーではなく、民間機のように塗装され、外観上、識別番号や国籍表示などの軍用マーキングが確認できなかった。
また、ミサイルやロケット弾も翼下に露出させず、胴体内部に格納して発射していたという。

これだけでは、外観を具体的に想像しにくいが、ニューヨーク・タイムズ紙は、作戦が行われた時期と前後して、アメリカ領バージン諸島のセントクロイ空港で、一般の航空機ファンが、白地に青いストライプを施され、軍のマーキングが見当たらないボーイング737型機とみられる航空機を撮影し、掲示板型SNS「Reddit」に投稿していたことも紹介している。

これが実際に作戦機だったかどうかは不明だが、「典型的な軍用機とは異なる外観の機体が現地に存在していた」という状況証拠として、疑念を補強する間接的な材料になっている。

「確実に成功させ、失敗の兆候を外に見せない」ことを最優先か

では、なぜ最初の一撃で、こうした民間機風の航空機が選ばれたのか。アメリカ主要紙の報道を総合すると、問題の航空機は、本来は攻撃用途ではなく、秘匿性を要する任務のために運用されてきた機体だったとみられている。
偵察・情報収集・要人輸送・人質救出など、「撃たれないこと」、「目立たないこと」が優先される場面で使われる航空機である。

にもかかわらず、それが最初の致死的攻撃に投入された理由として、専門家の多くが指摘するのは、9月2日の作戦が政治的に特別な意味を持っていた点だ。
この攻撃は、トランプ大統領が掲げてきた「麻薬密輸業者を軍事力で殺害する」という方針を、初めて実力行使として可視化する象徴的な一撃だった。
この段階では、政権内でも法的正当性は固まり切っておらず、軍内部にも異論があり、国際社会の反応も未知数だった。
だからこそ、「確実に成功させ、失敗の兆候を外に見せない」ことが最優先された可能性が高い。

無人機「MQ-9リーパー」
無人機「MQ-9リーパー」

民間機に見える航空機は、その意味で、作戦成功率を最大化するための選択だったと映る。
この見方を補強する事実として、国防総省がその後の作戦では、問題の「民間機」に化けた航空機を用いず、無人機「MQ-9リーパー」など、外観上も明確に軍用と分かる機体に切り替えたことが挙げられる。

技術的な都合というより、民間機偽装は一定の成果を上げた一方で、法的・政治的なリスクも大きかったため、以後はより無難な手法が選ばれたとみる向きもある。

それでも、戦争法には繰り返し参照されてきた重い禁止概念がある。「背信行為(perfidy)」――民間人や民間物といった、国際法上保護される地位を装い、相手の警戒を解かせたうえで殺傷する行為だ。
文民保護という戦争法の根幹は、「民間は攻撃されない」という信頼の上に成り立っており、その信頼を逆用する行為は、単なる戦術的欺瞞(ぎまん)とは異なり、戦争犯罪として扱われる。

国際法上の焦点は明確だ。第一に、航空機が相手から見て「民間機」と誤認される外観だったのか。
第二に、その誤認によって、相手が本来とるべき警戒や回避、降伏といった行動をとれなくなったのか。
たとえ軍用識別信号を発していたとしても、相手がそれを受信・理解できなければ、外観上の誤認は解消されないというのが、多くの戦争法専門家の見方である。

さらに、この作戦は偽装の問題だけにとどまらない。
最初の攻撃で生き残った2人が、沈没した船の残骸にしがみついていたところを、追撃によって殺害された点だ。
監視映像には、2人が空を見上げ、腕を振る様子が映っていたとされる。
軍は、降伏の意思表示とは解釈しなかったと説明するが、ここには遭難者(戦闘不能者)を攻撃してよいのかという、別の重大な法的論点が生じている。

ベネズエラ侵攻の正当性にも影

そして問題は、この一連の疑義が、単発の海上作戦にとどまらない点にある。
対密輸船攻撃は、その後のアメリカ軍によるベネズエラ侵攻、ニコラス・マドゥロ大統領の拘束へと連なった。

拘束され移送中のベネズエラ・マドゥロ大統領
拘束され移送中のベネズエラ・マドゥロ大統領

国際法上、武力行使は一連の行為として評価される以上、初動段階の合法性は、その後の侵攻全体の正当性から切り離すことはできない。
出発点となった作戦が、背信行為や戦闘不能者攻撃といった深刻な疑義を抱えている場合、後続の武力行使全体の正当性にも影を落とすことになるだろう。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。