トランプはやはりタコ(TACO)だった。
ドナルド・トランプ米大統領は17日、米国のグリーンランド購入に反対しているデンマークをはじめ、ドイツなど欧州8カ国からの輸入品に対し、2月から10%、さらに6月からは25%の追徴関税を課すと宣言していた。
ところが4日後、トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、この追徴関税は「やはり行わない」と発表した。
その理由として大統領は、21日にNATO(北大西洋条約機構)のマーク・ルッテ事務総長との会談で、グリーンランド問題の解決に向けた枠組みを作ることができたからだと説明した。しかし、この説明を多くのマスコミは素直には受け取らなかった。実際、主要メディアは一斉にトランプ大統領の対応を「TACO」と評した。
「トランプと『TACO!』がダボスを揺るがす」(ニューヨーク・タイムズ)
「トランプのグリーンランド合意で再び『TACO』との声――その意味は?」(USAトゥデイ)
「TACO再び:なぜトランプはグリーンランドをめぐる強硬姿勢から後退したのか」(エコノミック・タイムズ)
いずれも、トランプ大統領の「朝令暮改」を「TACO」として捉えたものだ。
“トランプはいつも怖じ気づいて引き下がる”
「TACO」は、 Trump(トランプは)Always(いつも)Chickens(怖じ気づいて)Out (引き下がる) の頭文字を組み合わせた造語で、米金融界を中心に使われ始めた。
この言葉が広まるきっかけとなったのは、2025年5月初めの動きだった。トランプ大統領は「解放の日(Liberation Day)」関税として、中国やEU諸国、その他の主要貿易相手国に高率な関税を課すことを示唆した。これに市場が即座に反応し、米国株は下落、欧州市場も連鎖安に陥った。ところが、事態が深刻化しかけると、トランプ政権はすぐに「発動時期は柔軟に考える」とトーンダウンした。
この一連の動きを受け、英紙フィナンシャル・タイムズのロバート・アームストロング記者がこの表現を用いたのをきっかけに、市場では「TACOトレード」という言葉が定着していったと言われる。

しかし、TACOと呼ばれる現象は経済問題に限らなくなった。2026年初め、イランで国内の抗議運動が拡大した際にも、トランプ大統領はイラン指導部に対し軍事介入を示唆する強い言葉を用いたが、実際の軍事行動はとらなかった。この時も米国のマスコミは「大統領が“TACO”を始めた」と評したが、トランプ大統領自身はこれを否定した。「これは撤回ではない。交渉だ」というのが常套句である。
確かに、圧力をかけて譲歩を引き出すという交渉術の一環だと見ることもできる。実際、強硬姿勢を見せることで相手を交渉のテーブルにつかせる手法は、ビジネスの世界では珍しくない。

大統領の意図は別にしても、このパターンはウォール街の一部にとっては利益機会となった。関税発表で相場が崩れ、方針転換で持ち直す――この振れ幅を利用する取引が横行し、政策そのものが投機の材料となったとの指摘もある。政策の不確実性が、実体経済より先に金融市場で「消費」されてしまう構図だ。
今回も、トランプ大統領の欧州8カ国への関税発言が飛び出すと、ウォール街のディーラーたちは一斉に欧州関連株を売り出した。しかし、これまでの例から「大統領は最終的には引く」と読む向きも多く、すべてを売り切ることはせず、下げたところで買いに入る準備を進めた。関税撤回を先回りして利益を上げた投資家も少なくなく、「TACOトレードの勝利」とも言われている。
プーチンは見抜いていた?“外交のTACO”は問題
経済的にはそれでもよいのかもしれない。だが、こと外交問題となると、「TACO」と評される行動様式の持つ意味は深刻だ。
例えば、2025年後半から2026年初めにかけて、トランプ政権がロシアに圧力をかける文脈で、ウクライナへの長距離攻撃能力付与、いわゆるトマホーク供与が取り沙汰されたことがあった。しかし、ロシアのプーチン大統領はこれを一顧だにせず、米国は短距離用のミサイルを供与するにとどまった。これは、プーチン大統領がトランプ大統領の「TACO」とも言われる行動様式を、すでに織り込んでいた可能性を示しているのではないか。
また、トランプ大統領は24日、カナダが中国と合意した関税引き下げを履行するなら、カナダからの輸入品に100%の関税をかけると表明した。関税の低いカナダが、米国向けに輸出する中国産品の「経由地」となることに不快感を示したものと言われる。しかし、その後カナダで大きな騒ぎになっている様子はない。「TACO」を見抜いてのことのようにも思える。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
