あの球審、殴るかと思った

このところ日曜はプロ野球ロッテの佐々木朗希投手が毎週投げていたので、「今週は何をやらかしてくれるのか」と楽しみだったのだが、突然登録を抹消され、おかげで先週はつまらなかった。今週末は投げるらしい。

登録抹消の理由は「ちょっと疲れもあるようだから」という井口監督の説明だったが、本当はあの“事件”でカッカしたのでみんな少し頭を冷やそうという事なのだろう。

“事件”が起きたのは4/24のロッテ・オリックス戦

ボール判定に不服だったのか、苦笑いを浮かべた佐々木投手に向かって白井球審が憤然と歩き出した時、観ていた人は、佐々木が何か暴言を吐いたので退場を食らうのかと思ったのではないか。というより球審は明らかに怒っていて佐々木に殴りかかりそうに見えた。

しかし球審は、慌てて間に入った松川捕手が何か言うと、クルッと向きを変えて自分の位置に戻った。ビデオで見ると佐々木は何も言ってない。ただマウンドを降りて捕手(あるいは球審)の方に2、3歩歩いている。これは場合によっては審判への威嚇とみなされるらしい。

微妙な判定(明らかにストライクなので誤審)に対する若い佐々木の「ニヤリ」が気に障ったか、あるいはマウンドを降りたのを注意しようとしたのか、球審はいったん佐々木に詰め寄ったが、途中で思い直したようだ。

ちなみに佐々木はその前にも「微妙な判定」に対して苦笑い(ニヤリ)している。この「ニヤリ」は審判を挑発しているようにも見える。ネット上では球審への非難が激しかったのだが僕は彼に同情する。この人は佐々木というとんでもない投手の「妖気」のようなものに当たって逆上してしまったのではないかと思うのだ。

毎週日曜に“事件”を起こす男

佐々木が“事件”を起こしたのは初めてではない。最初はその2週間前の日曜のオリックス戦でやった完全試合。この時19奪三振の日本タイ記録を作ったが、ビデオを見るとオリックスの打者は当てるのがやっとだった。見ていて「これは誰も打てない。永遠にパーフェクトが続くのでは」という恐怖を感じた。娯楽ではなくホラーだ。

2回目の“事件”は次週の日曜で、案の定8回までまたパーフェクト。本当に誰も永遠に打てない。世界初の2試合連続完全試合かとビビッていたら、自軍の得点もなく、なんとパーフェクトのまま佐々木は降板してしまった。

そんなのありか。2試合目はやや調子が落ちていたとはいえ、佐々木には前の試合に引き続き「神が降りて」いた。あれは誰も打てない。限界まで記録に挑戦してほしかった。大人なんだから投げさせればいいのに。だが井口監督のこの采配は批判されず、むしろ賞賛された。

井口賞賛の理由は「佐々木は完全試合などいつでもできる。それより将来を考えて無理するな」ということだ。しかし、「完全試合をいつでもできる」という前提に立っているという事が恐ろしい。

「不穏な空気」に毎月1595円払う

毎週日曜日、ロッテの試合では“事件”が起きるので、僕はスマホに「パリーグTV」のアプリを入れ、「見放題パック」で毎月1595円払う事にした。だから登録抹消に対しては話が違うよ!と怒った。

スポーツを観ていると、たまに神に近づく人がいる。野球だと全盛期のイチローや王貞治か。佐々木も明らかに神に近づいている。ただ彼がイチローや王と違うのは、何か常に危険な匂いというか不穏な空気が漂っている。これは見ていてシビれます。

また何か“事件”が起きるのかとビクビクしていたら登録抹消になったので実はホッとしてもいる。佐々木はどうやら今夜(5月6日)投げるようだ。たぶん何か“事件”が起きるのだろう。見ないではいられない。

【執筆:フジテレビ 上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。