全日本フィギュアスケート選手権が、12月23日からさいたまスーパーアリーナで始まる。

この大会で男子は2012年以降、羽生結弦が5度、宇野昌磨が4度制し、文字通り“2強時代”と言われた。

そこに割って入ろうとするのが18歳の期待の新星、鍵山優真。彼の強さの根源にあるのは「父の存在」だった。

父親も驚く“息子”の努力

長年続いてきた男子フィギュアスケートの“2強時代”。

今この勢力図を塗り替えようとしているのが、鍵山だ。

2021年の世界選手権で銀メダルを獲得した鍵山
2021年の世界選手権で銀メダルを獲得した鍵山
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2020-2021年シーズンにシニアデビューを果たすと、初出場となった2021年3月の世界選手権で銀メダルを獲得し、世界にその名をとどろかせた。

そんな彼を指導するのはアルベールビル五輪、リレハンメル五輪とオリンピックに2度出場し、全日本選手権では3連覇(1991~93)を成し遂げた父・正和コーチ。

鍵山と正和コーチ
鍵山と正和コーチ

「“ここまででいい”と思ったところをさらにプラスアルファして、自分で付け加えて練習しているので、必要以上に練習はしている」と、日本一に立った父ですら鍵山の練習量に舌を巻く。

その努力の成果が今シーズン、実を結んだ。

質の高い4回転ジャンプ2種類(サルコウ、トゥループ)と、昨年よりもこだわり抜いた表現力で初めてのグランプリシリーズに出場し、イタリア大会とフランス大会で2連勝。中止になってしまったが、グランプリファイナルへの出場も決めていた。

コツコツ階段をのぼってきた結果が今

鍵山の世界ランキングは現在、1位。

今、最も勢いに乗る鍵山が次に狙うのは「初の全日本王者」と、その先に待つ北京オリンピック代表の座だ。

北京オリンピックの代表最終選考会でもある今回の全日本選手権。男子シングル3枠の椅子をかけた激戦が予想される。

2020年の全日本
2020年の全日本

鍵山は過去2大会、羽生・宇野に次ぐ3位で終わり、優勝への高い壁を感じた。

目前に迫る全日本選手権に向け「確実にオリンピックに出たいので、優勝目指して頑張りたいです」と、少し小声で遠慮がちに話した目標。

それでも、次世代を担うエースはこう決意表明をする。

鍵山優真
鍵山優真

「宇野選手も今シーズン4回転ループを入れていたり、(4回転を)4種類やってきたりしているのですごい。羽生選手も去年よりもっとうまくなっていると思う。いつかは抜かさなければならない時が来るし、尊敬しているからこそ2人を越えたい」

そんな鍵山を誰よりも近くで支えてきた父・正和コーチは、息子のフィギュア人生について「コツコツやってきた結果が出ているだけのこと。駆け上がってきた覚えはあまりなく、体重をしっかり乗せて一段一段、人よりもゆっくりかもしれないですが、それが積み重なってきた結果が出ているだけだと僕は思っている」と明かす。

父・正和コーチ
父・正和コーチ

だからこそ、今シーズンの息子の“勢い”を正和コーチは「結果は出ていますが、内容に関してはまだ全然」と冷静に受け止める。

「技術的なところも、精神的なところもどちらも。どの試合も追い詰められたときに強さを発揮できるのが一流の選手。そういったところでは、まだ成長をしきれていないところもあると感じます」

想像できなかった「五輪」が4年で目標に

いまやトップ2に挑んでいく存在となった鍵山だが、そのスケート人生は決して順風満帆ではなかった。

憧れの父親の背中を追い、5歳から本格的に競技を始めた鍵山。

フィギュアスケートへの思いを語る当時6歳の鍵山
フィギュアスケートへの思いを語る当時6歳の鍵山

「パパがオリンピックに出て、スケートを始めようかなと思いました」と当時6歳の鍵山は、まだあどけない表情で競技への思いを語っている。

しかし幼少期は目立った成績は残せず、時にはそのふがいなさから人前で涙を流すこともあった。

それでも「お父さんに良い演技を見せたい」という思いから、父と二人三脚でコツコツと努力を積み重ね、一歩一歩、覚醒への階段をのぼってきた。

初のオリンピック選考会に挑む鍵山は、「4年前は、4年後の自分がオリンピックを目指しているなんて思ってもいなくて、想像することもなかったんです」と話す。

「4年前は見ている側で緊張感やオーラが見えた。今度はそれを自分が体験する番だと思うと、すごくゾクゾクする。4年に1回の貴重な体験だと思うので、そのチャンスを逃さずに自分らしさ全開で全日本は滑りたい」

目指すのは「表彰台の一番上」

振り返れば「あっと言う間だった」という4年間。

ここ最近の活躍で周囲からの期待も高まるが、「(重圧には)全然なっていないです。むしろ応援とかが、自分を支えてくれる」と笑顔を見せた。

そして、正和コーチにも熱い思いがこみ上げる。

「4年前はテレビの中の世界でしかなかったわけですけど、4年経った今、その渦中に自分がいるわけじゃないですか。世界ランク1位という場所にいて。

でも自分がまだまだ実力の半分も発揮できていないというところももちろん感じていますし、自分が一歩前に出ていける、力に変えていけるか、ここが本当の勝負どころだと思います。

彼が今後のスケート人生の中で、今年の試合というのは、本当に生きてくると思うんですよね。引っ込んじゃうのか、前に出るのかというところで違ってくると思うので、なにがなんでも前に進んでほしいかな。うん」

鍵山も父への思いを明かしてくれた。

「お父さんと同じ目標を持ってやってきた。ショート、フリーでノーミスをして自分がお父さんをオリンピックに連れて行って、良い演技をしたい」

いよいよ迎える全日本に向け、「自分の立場とか、今の立場とか、去年の成績とか、忘れるというか、あまり考えずに。去年は挑戦者という立場でやってうまくいったので、今年も挑戦者という形で上を目指して行けたらいいなと思います」と意気込む。

2020年の全日本
2020年の全日本

そして最後には、「表彰台の一番上にのぼって、オリンピックの出場権を獲得するのが目標」と力強くまっすぐにその思いを話してくれた。

12月24日、男子ショートプログラムから親子の夢をかけた戦いが始まる。北京オリンピックへ、そして表彰台の一番高いところへ、鍵山はどんなパフォーマンスを見せるのだろうか。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班