オリンピック代表の最終選考会となる全日本。決戦を直前に控えたこの日、樋口新葉は現在の手応えをこう語った。

「アクセルの成功率を上げるためにずっと頑張ってきたので、凄く自信もついて来てますし、それがすごいジャンプという意識がだんだん薄れてきて。もう跳べて当たり前みたいなジャンプになりつつあります」

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事実、今季はトリプルアクセルを10月のジャパンオープンで初成功させると、5試合中3試合で成功。

勢いにのる樋口は11月のGPフランス大会では、トリプルアクセルはわずかな回転不足と判定されたものの着氷。ショート6位から総合順位で3位入りを果たした。

現行の採点方法ではフリー自己ベストの高得点もマークし、上り調子だ。

またそのフリー「ライオンキング」はリンクを目一杯に使った、スピード感と躍動感にあふれる演技で楽曲の世界観を体現。最後のステップでは笑顔もこぼれ、会場はスタンディングオベーションに包まれた。

海外のグランプリシリーズ表彰台は実に4年ぶり。全日本選手権に向けて弾みをつけている。

そしてその先に見据えるのは、北京五輪での世界との戦いだ。

「アクセルを跳んで、もう1個上のところに上がる準備というか、なんとか4回転を跳べる選手に食いついていけるようにしたい」

手応えの中にも、冷静な現状認識も持ち始めた20歳。
北京を目指すその足跡を追う。

中学2年生での衝撃デビュー

2014年全日本フィギュア
2014年全日本フィギュア

7年前、彼女は日本中のフィギュアファンを驚かせた。中学2年生、13歳で初出場した全日本で3位表彰台。

実況席のアナウンサーは、新時代到来の予感を興奮気味に伝えた。

「これは衝撃の全日本デビューです!」

もちろん樋口が心に思い描く夢はただ一つ。

色紙にその目標を書き記すと、「オリンピックで金メダル。平昌とその4年後」と、物怖じする事なく、まっすぐに未来を語った。

だがオリンピックに向けた最初の挑戦は、本人も予期せぬ結末となる。

4年前、平昌オリンピック代表の有力候補として臨んだ2017年の全日本。

2017年全日本フィギュア

ショート4位と出遅れた樋口は、フリーでもわずかなジャンプのミスが響き挽回出来ず、最終順位は4位。当時2枠しかなかった代表には届かず、16歳の挑戦は失意のうちに終わった。

樋口は今、その経験をこう振り返る。

「自分に何か足りないものがあったからそういう結果になったと思うので…。この4年間何が悪くて何が良かったのかっていうのをすごく考えていて。4年前の悔しい気持ちは減るわけじゃないけど、良い方向に頑張る方向に使っています」

持ち味のスピードとダイナミックさ。そこに加わるトリプルアクセル

もう一度夢を目指す原動力として、彼女が意欲を燃やしたのがトリプルアクセルの習得だ。

もともとスピード感のあるスケーティングとダイナミックなジャンプに定評がある樋口にとって、国内の壁を打ち破る上でも、また世界と戦う上でも必要な要素だった。

当時樋口も、「トリプルアクセルを降りたら凄い(選手)みたいなところがあるので、そっち側に行きたい。凄い側にいきたい」と語った。

実はこのトリプルアクセル、2016年からコツコツと練習を積み重ねていた憧れの大技。ハーネスを付けその感覚をつかむべくジャンプを繰り返した。それでも試合ではなかなか成功できない…。

2020年2月の四大陸選手権から本格的に試合に投入するも、同年12月の全日本ではショート、フリーとも不発に終わり自己ワーストの7位。試合後にはその結果もしっかりと受け止めていた。

「今年こういう風な結果になってしまったんですけど、本当にやらなきゃいけないことはやったと思うし、今年この悔しい気持ちっていうのを1年持って、来年笑って終われるようにしたいです」

何度も何度も転びながら練習を繰り返した

練習では転倒する度にリンクに打ち付けられる身体。

「痛い」「冷たい」そんな言葉がこぼれた。

それでも表情からは、新たな挑戦を目指す強い意志が伺えた。

そしてオリンピックシーズンとなる今季。ようやくその時が訪れる。
10月のジャパンオープンで初成功させると、GPスケートカナダでもGOE+1.14の高い出来栄えで決めてみせた。

さらに11月のオーストリア杯ではショートでもトリプルアクセルを投入。GOE+2.40で見事成功させ、今季世界3位となる79.73点を叩きだした。

一体、何が変わったのか?

「今シーズンは、アクセルの成功率を上げるためにずっと頑張ってきて、結構コンスタントに試合でも成功しているので、凄く自信もついてきていますし、それ(アクセル)がすごいジャンプという意識がだんだん薄れてきています。もう跳べて当たり前みたいなジャンプになりつつあるので、すごくいいなと思います」

ーー成功率が上がってきたのは、技術的な部分、あるいは感覚で掴んだ部分ですか?

いつも同じような感覚で跳べているのも1つですし、あとは気持ちが1番大きいかなと思っています。結構アクセル跳ぶときに、怖くて直前で止めちゃったりするんですけど、それがもう「跳べる!」と思って行けば跳べるので、そこかなと思います。

だが樋口がトリプルアクセルに取り組んだこの数年間で、世界のトップはロシアを筆頭に4回転ジャンプを操る時代に突入。日本勢が世界と戦うには、もはやトリプルアクセルを特別なものとはしない演技構成や完成度が求められつつある。

「4回転を跳んでいる選手もいるので、アクセルを跳んで、もう1個上のところに上がれるような準備というか、なんとか4回転を跳べる選手のところに食いついていけるようにしたいなという感じです。

去年はすごく大きい一歩だったんですけど、今年はその上に上がるための準備段階というか、そういうイメージです」

4年前の五輪代表落ちから得たもの

精神的にも、技術的にもたくましくなった樋口にオリンピックへの想いを聞いた。

「4年前は、今よりも10倍くらい自信があったんですけど、なんかその自信が逆に駄目だったのかなって思っているので、今は」

「毎日毎日あと1週間しかないって思いながら過ごしていて、その分今日も『もうちょっとできることがあった』って思いながら練習をして、それを毎日消化するというか、ちゃんと成長しながら時間を過ごしてます

めちゃくちゃ緊張するんですけど、楽しい時間を過ごしているので、それが自信に変わっているし。4年前とは違う臨み方というか、落ち着いて、考えすぎずに過ごして行けているので、今はスケートがすごく楽しい時期というか、そういう感じがします」

オリンピック出場をかけた全日本はもう目の前。

手にした新たな武器と自信を引っさげ、今度こそ、夢を叶える時だ。

「もう本当にちゃんとやる!ちゃんとやるって言う事だけで今練習していることをちゃんと全部出し切って自信を持ってやれば、絶対に大丈夫だと思っています。自己ベストを更新して表彰台に上がれるように、そしてオリンピックにつながるようにしたいです」

大一番を前に『スケートが楽しい』と語れる樋口の成長。さらには全日本の先にある戦いを見据えながら、自分を磨くその姿に期待が高まる。

トリプルアクセル、そして新フリー「ライオンキング」にその成長が体現される瞬間が待ち遠しい。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
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