ついに本格的に始まる2021-2022シーズンのフィギュアスケート。

北京オリンピック代表最終選考会となる12月の全日本選手権への予選会が、9月24日から行われる中部選手権、中四国九州選手権を皮切りに始まっていく。

6つの地方大会、そして東西日本選手権を勝ち抜いた選手たちだけが、年末の全日本選手権の舞台にたどり着くことができる。

松生理乃
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中部選手権に出場する松生理乃は今季シニアデビューを迎えた16歳。昨シーズンは、全日本ジュニアを制すと、勢いそのままにシニアとしてNHK杯に出場し3位、全日本選手権で4位と、一躍北京オリンピック代表候補に躍り出た。

「試合の後の取材以外でこういう風にインタビューを受けるのは初めてです」

そう話しながら、照れくさそうな表情を見せた松生理乃は、今年どんな活躍を見せるのか。松生が大切にしているものに迫った。

「本当に下手っぴ」だった幼少時代

幼少期の松生

松生が初めてリンクの上に立ったのは、6歳の頃だ。

「幼稚園の時から、ちょっとやってみたいなと思っていて、小学一年生の時に(リンクに)遊びに行って、凄く楽しかったんです。でもお母さんも私もスケートをやることは凄く大変なことで、お金もかかるということは知っていたので、なかなかクラブに入るっていうことにはならなくて」

3年間リンクに通った松生は、9歳で本格的に競技を始めることを決心。所属したクラブには村上佳菜子や宇野昌磨といった、世界で戦う面々が揃っていた。

「昌磨君、佳菜子ちゃんが同じ貸切のリンクで滑っていて、私は全然ちっちゃかったし、何も跳べなかったので、ずっと壁際で見て、凄いなぁと思っていました」

今では北京オリンピックの代表候補に数えられるほど成長した松生だが、ここ数年まで注目を浴びることは無かった。多くのトップ選手が優勝している全日本ノービス選手権(9歳〜12歳)では上位入賞することすら出来なかった。

「最初の頃はもう全然。本当に下手っぴでした。一応ダブルアクセルは跳べていたんですけど、物凄い猫背で姿勢も悪くて。ステップも下手くそだし、ジャンプも別にそんな上手っていうわけではなかったので」

コーチは伊藤みどりや浅田真央、村上佳菜子、宇野昌磨ら世界で活躍する選手たちを数多く輩出した山田満知子コーチと樋口美穂子コーチ。

厳しくも愛のある指導の下、松生が変わることができたのは日々の“積み重ね”のおかげだった。

“積み重ね”で掴んだ全日本ジュニア優勝と全日本4位

練習を重ねてもダブルアクセルがきれいに跳べず、何度も競技をやめることを本気で考えたという松生。

「これが終わったらにしよう、これが終わったらにしようと、どんどん後回しにしていて…。ただ毎日やっていたら、なんかある日、急に跳べるようになって」

その折れずに練習に励む姿は、トリプルアクセルが跳べずに悩んでいた宇野の姿と重なる。同じリンクで悪戦苦闘していた宇野が跳べるようになったのは、やはり積み重ねのおかげだった。

「(宇野の話を、樋口)美穂子先生から聞いたことあって。練習の半分以上の時間をトリプルアクセルに費やして、毎日毎日やって、『やめなさい』っていうまでやって跳べるようになったから、自分も『それぐらいやりなさい』って言われていました」

日々の練習は、結果的にスタミナを含む運動能力全般にも影響を与え、50mは7秒台、シャトルランは103回と、スポーツの特待生も多く集まる中京大中京高校の中で学年2位の成績も残したという。

2020年の全日本ジュニア選手権で優勝した松生理乃

積み上げた毎日は、“結果”に繋がり、昨シーズンは「自分の中でも飛躍できた一年」となった。

【松生理乃2020-2021シーズンの成績】
中部選手権/優勝
西日本選手権/優勝
全日本ジュニア/優勝
NHK杯(シニア)/3位
全日本選手権(シニア)/4位
インターハイ/優勝
国体(少年女子)/優勝

「たくさんの試合にも出させてもらえて。試合でも結構自分の納得のいく演技ができたし、点数的にも構成的にも凄くレベルアップできた一年だったと思うので、去年は凄く良かった一年ですね」

今では、大技トリプルアクセルに挑むまでに成長した松生。どんな大技であったとしても、今までと変わらずコツコツ続けるのが彼女のスタイルだ。

オリンピックに出るため、できることを“コツコツ”と

「『この一時間にこれをやる』とか決めて。周りにもたくさん練習している選手がいっぱいいるので、そういうのを見て、『私もやらなきゃ』っていつも思って練習しているので、結構密度の濃い練習できているかな」

積み重ねてきた練習量に加え、自ら考えながら質の良い練習をすることで、「上達するスピードが速くなっていると思う」と話す松生。昔の自分では全く想像できなかった、男女ともにたった3枠しかないオリンピック出場への道が見えてきた。

「オリンピックの枠に入れる可能性が出てきたっていうのは、自分にとっては凄く大きいことだし、信じられないっていうのもあるんですけど。でも選んでもらえる可能性が少しでもあるなら、出たいと思って頑張るっていうのが普通だと思う。

オリンピックに出たいとだけ思うんじゃなくて、今の自分ができることを毎日やっていて、それがオリンピックっていう大舞台に繋がっていったらいいのかなと思います」

今、松生が取り組んでいるのは、完璧なトリプルアクセルだ。

「トリプルアクセルもしっかり習得して、試合で決められるようにして、点数ももっと今まで以上に高くしていけたらいいな。邦和杯(7月名古屋スケート競技会みなとアクルス杯)の時でも回ったかなと思ったんですけど、あれでも回転不足を取られたので、もっと回らなきゃいけないし、回って降りるっていうのを早く覚えないといけないなって思います」

「ちっちゃい時からコツコツやれば結果が出るっていうのは、自分でもわかっていることなので、辛くても『でもこれをやればきっと結果がまだ残せる』って思ったら頑張れます。

前よりだいぶ自信がついてきたかなと思うんですけど、やっぱりちょっと調子が悪かったり、ちょっと試合で失敗したりすると、すぐ自信を失ったりするので、そういう弱い部分がまだあるのは課題です」

イメージをガラッと変えるプログラム

オリンピック最終選考会となる12月の全日本選手権を目指す戦いは9月24日から行われる中部選手権、中四国九州選手権を皮切りに始まっていく。

昨年全日本選手権で上位入賞した松生も例外ではなく、地方大会からのスタートだ。

今シーズンのプログラムはショート、フリー、共にこれまでの松生のイメージをガラッと変えるものだ。

「(ショートは)A quoi ca sert lamour(邦題「恋は何のために」byエディット・ピアフ)っていうフランス語の曲なんですけど、最初聞いた時ちょっと『え!?』ってなって」

このショートはフランスの華やかな街を、可愛い女性が歩くようなイメージだという。

「去年はショートもフリーも柔らかい曲調だったので、『今年はその去年のイメージをガラッと変えるような感じにしたい』って言われて。そういう動きは得意じゃなかったので、凄い難しかったし、美穂子先生がやってそれを真似しても、全然うまく真似できなくて。

鏡で見たり、選手の動画をいっぱい見たり、ここでいっぱい練習したりして、(今は)少しずつできてきているかな」

一方、フリーの「月光」は数々の名選手たちが滑ってきたベートーベンの名曲だが、ボーカルが入った一味違うアレンジの曲をチョイスした。このプログラムはショートとは逆に“重さ”を重視していると話す。

「ショートは軽やかな感じで滑るんですけど、フリーは重く滑らなきゃいけないし、笑顔で滑る曲でもないので、そういう曲は本当にやったことがないし、すごく難しかった。あんまり強弱をつける曲ではないので、そういう風に意識してやると、今度は凄くつまらなくなっちゃうので。メリハリがなくなってしまうので、手の動きとかが無くならないようにっていうのは意識しているんですけど、難しいです」

突出した才能があるわけではなかった少女が、練習を積み重ねながら難しい課題を一つ一つ乗り越え、今シーズンは本格的に日本のトップと戦っていく。

「色々なものをやってみたいなと思います」

そう笑顔で話した松生の挑戦が、いよいよ始まる。

特集「@リンクサイド」では、12月の全日本選手権までフジテレビフィギュアスケート取材班が独自の目線で取材したエピソードを伝えていきます。