この日、日本サッカー界で長年トップ選手として走り続けて来た中村憲剛(40)、内田篤人(33)の二人が再会した。

奇しくも昨年の8月と12月に相次いでピッチを去った二人。10月30日(土)に開催されるJリーグYBCルヴァンカップ決勝に向けた収録で、サッカーと引退後の生活を語りあった。

この二人の出会いは内田篤人が19歳の時。

日本代表の合宿で初めて一緒になり、足元に届いたパス一本で、お互いの力を特別なものと感じたという。

そしてピッチを離れれば、中村は3人の子供(一男二女)の父親、そして内田は2人の愛娘を持つ子煩悩な父親でもある。

二人っきりの対談で一体何が語られたのか?父親としての本音や喜びは?
フランクな言葉が飛び交った約1時間をお伝えする。

(後編:内田篤人が中村憲剛と本音で語った1時間。4度目のルヴァン杯決勝で見た景色と、キングカズ・伝説ゴールの衝撃

14年前のインスピレーション。昨年の引退

この記事の画像(12枚)

内田篤人(以下、内田):
最初はあれです、日本代表のキャンプかな。(中村)憲剛さんがいて、身体小さいじゃないですか、ひょろひょろだし。
そこで中盤で(憲剛さんが)“パーン”ってターンして、(自分の)足元にスルーパスが“スパーン”って来た時に「この人一番うまいかもしれない」と思ったのが憲剛さんの最初の印象です。

中村憲剛(以下、中村)
これ絶対使ってくださいね。(笑)
ここフルで使ってもらって、端折らないで。

内田:
憲剛さん、俺は?

中村:
同じタイミングですよ。僕のパスをピタッとトラップを“前に”止めるっていう。新鮮でしたね。
「新世代のサイドバックが現れたな」と僕も思ったので。それ以来ですかね。何年前だあれ。

内田:
俺が19歳の時だから、もう…だいぶ前です。

中村:
会ってすぐにJリーグで頭角を現して来たので、「凄くいい選手が現れたな」と僕は思っていましたし、こういう顔なんで、(こちらが)強気に出ていくと、引くかなと思ったんですけど、気が強いので、逆に若いのにふてぶてしい所があって。
「ああ、頼もしいサイドバックだな」と僕は思っていましたけどね。

内田:
そういうことです。(笑)そういうことらしいです。

中村:
そういうことです。(笑)

言葉を交わすことよりも、パス一本で交わされるトップアスリートたちのインスピレーション。14年前に、出会うべくして出会ったふたつの才能がそこにはあった。

ただ学年で言えば7つも違い、日本代表以外では同じチームに所属したことがない二人が、昨年8月には内田篤人、そして12月には中村憲剛と、相次いでピッチを去った。ただの偶然だけではない繋がりを感じた人もいただろう。

ーー引退の時、内田さんは先に中村さんに連絡したんですか?
内田:
俺連絡した…?

中村:
したした。

ーー中村さんから内田さんには?

内田:
した?

中村:
したじゃん。忙しいからすぐ忘れちゃうからね。したよ。会見する当日にしたから。

内田:
あ、会見の数時間前にしてくれたんだ。「今から会見して辞める」って。

ーーその時、お互いに言葉は何かありましたか?

中村:
「あっ、一緒(のタイミング)」「おつかれさま」みたいな感じ。

内田:
そんな感じです。もう決めたんだなと。

中村:
これ止めようがないですもんね。

内田:
本人がいいならいいんです。

中村:
節目で意外と電話がかかってくるんですよね、内田さんから。

内田:
憲剛さんは相談する数少ないうちの一人。僕から電話が行くときは大ゴトです。

中村:
そう、だから(携帯の着信見て)「えっ、内田篤人?」って。怖いです電話。

ーー他にも何か大ゴトがあったんですか?

内田:
鹿島に帰ってくるとき。

中村:
日本に帰って来る時にどうするか、みたいな。まだ(ドイツに)いた方がいいのかみたいな。
僕の話が決定する理由にはなるとは思わないですけど、

内田:
うん、ならないです。(笑)

中村:
ならなんで電話してきたんだよ。(笑)
けどまあ、一大事ですからこればっかりは。

内田:
そんな感じです。

中村:
ちゃんと真摯に答えてましたよ。

「娘がサッカー選手連れて来たら嫌じゃないですか」

記事の冒頭でも触れたが、中村は3人の子供(一男二女)の父親、そして内田は2人の娘を持つ
父親だ。

昨年の引退セレモニー。

8月、内田は愛娘二人と一緒にサポーターからの拍手に送られながらピッチを歩いた。長女は鹿島のユニフォーム背番号2に身を包み、内田に手を引かれながらより添った。次女はドイツ・ブンデスリーガ、シャルケ時代の背番号22の青いユニフォームに袖を通し、内田の手にしっかりと抱かれていた。

12月、中村には長男・龍剛くん(当時12歳)から、直接手紙が読み上げられた。

「物事にはいつか終わりが来るから美しくおめでたいことだと感じていました」
「引退おめでとう」

家族全員でスタジアムのサポーターに手を振り、18年間のプロ生活に別れを告げた。

そんな家族との強い絆を持つ二人の、父親としての素顔はどうなのだろう?

内田:
怒ったりしますか、子供に。

中村:
するする。全然する、全然する。俺たぶん結構厳しい。

内田:
するんだ憲剛さんが。サッカーの時、全然怒らないのに。

中村:
サッカーの時怒るよ。

内田:
本当に?

中村:
怒られなかっただけだよ、あなたが。
(その言葉を聞いた内田は、まんざらでもなさそうな表情)

中村:
内田家のほっこりエピソードは?

内田:
ウチは今1歳と5歳。もう2歳になるから2歳、5歳かな。

中村:
一番かわいい時だね。

内田:
合宿とB級ライセンスの講習で2週間くらいいなくて、(自宅に)帰ってきたところをビデオで撮ってたの。ドア開けた瞬間を。

中村:
帰ってきたところを奥さんがビデオで撮ってたの?

内田:
そう、撮ってて、子供の反応を。もうかわいい~。(笑) 
「はぁ!」(と気がついて)た、た、た、た、た(と走ってきて)。
「抱っこ!」「抱っこ!」って言って。

中村:
いい話じゃない。持ってるね、ちゃんと。

内田:
変な男連れてこないように。嫌じゃないですか、サッカー選手とか連れてきたら。(笑)

中村:
選手によるね。

内田:
あー、選手によるんだ。

中村:
篤人みたいだったらまあ、まあ、まあ。

内田:
セーフ?

中村:
まあ、まあ、まあ。

内田:
誰だったら嫌だ?

中村:
それは答えられないよ。(笑)
 

ーー前に(憲剛さんが)「篤人が理想の息子」みたいな、「どうやったらああいう風に育つんだろう」とか言ってませんでしたか?

中村:
上手ですからね、線の引き方と線を軽く越えてくる感じが。

内田:
土足で入ってくる感じが。

中村:
それが嫌じゃないんですよね。これは天性のものとしか言いようがないですよね。だからどういう風にご両親が育てたのかなっていうのは、昔話したことがあります。

内田:
これ、ここの話でこんなに時間使っていいの?(笑)

中村:
それは僕も心配しています。

29回の歴史を持つルヴァン杯決勝・表彰式の特別な景色

二人が関心をよせるのは今週末30日(土)に決勝を迎える、国内サッカーの三大タイトルのひとつ、ルヴァンカップ決勝のことだ。

J1リーグ王者、天皇杯と並ぶビッグタイトルで、ここまでグループステージや決勝トーナメントが8カ月に渡り繰り広げられて来た。

今年で通算29回目、来年には30回記念大会を控える歴史ある大会だ。なんと優勝賞金は1億5千万円にものぼる。

今年の決勝には、日本代表の経験を持つ大久保、乾、清武を擁し、若手の台頭が著しいセレッソ大阪と、今季リーグ戦で19試合無失点を記録し、Jリーグ屈指の守備を誇る名古屋グランパスが勝ち上がった。

ーー中村さんはルヴァンのファイナルを4回経験していると思いますが、あの雰囲気って独特ですか?

中村:
独特ですね。そういう意味ではリーグ戦の雰囲気とはまた別物というか、カップ戦のファイナルって空気感がね。一つ一つのプレーもそうだし、交代策一つ、ポジショニング、フォーメーション一つをとっても、やっぱり勝つための全てが詰まってますから。

内田:
たどり着くまでの道のりをファン、サポーターと歩んで来て、ここの試合で全部決まるわけですからね。 僕でも、ルヴァンカップ決勝出たことないんですよね。いいなと思って憲剛さん。 

中村:
4回中3回負けてるからね。
 (所属していた川崎フロンターレとしては5度決勝に進出し、4度敗退)
でも最後勝ったから。負けた悔しさも人一倍知っていますし。3回負けた分、4回目に勝った時の喜びっていうのも、いろんな人の思いを背負ってやっていましたから。そういう決勝の空気をどっちが打破するのか。
セレッソは4年ぶりですか?名古屋は決勝に出るのは?

ーー初めてです。

中村:
どっちが最高の景色を見られるのか、楽しみですね。 

内田:
楽しみですね。

二人が熱く語るルヴァンカップ決勝戦まであと2日。
次回は優勝したチームだけが見ることの出来る、表彰式の壇上からの景色。
そして中村憲剛が、少年時代に目に焼き付けたという29年前の伝説のシーンをお伝えする。

(取材:フジテレビサッカー班  構成・文:吉村忠史)
 

(後編:内田篤人が中村憲剛と本音で語った1時間。4度目のルヴァン杯決勝で見た景色と、キングカズ・伝説ゴールの衝撃

2021JリーグYBCルヴァンカップ決勝
名古屋グランパス×セレッソ大阪
30日(土)午後1時〜(フジテレビ系列生中継)
宮本恒靖&内田篤人がW解説!二人に囲まれて360度カメラによるVR観戦も!
https://www.fujitv.co.jp/sports/soccer/levaincup/index.html

LIFE WITH FOOTBALL
LIFE WITH FOOTBALL