ネットのアーカイブで、ハリウッド映画「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ(Wag the Dog)」を借りて観た。1997年のコメディ映画だが、この映画の筋書きが今回のイラン戦争とそっくりだとして、トランプ大統領を批判する人々がSNSなどでしばしばこの作品を引き合いに出しているからだ。
映画「ワグ・ザ・ドッグ」に酷似
例えば映画「スタンド・バイ・ミー」で知られる俳優ジョン・キューザック氏は、X(旧ツイッター)に次のように投稿している。
「トランプは“ワグ・ザ・ドッグ戦争”を始めた。エプスタイン問題から注意をそらし、さらに30年以上もこの戦争を働きかけてきたネタニヤフの望みをかなえるためだ。 もういい加減うんざりしていないか?」
Trump starts a wag the dog war - to distract from Epstein and to do Netenyahu ‘s bidding - who’s lobbied for this for over 30 years -
— John Cusack (@johncusack) February 28, 2026
Had enough yet ?
映画の筋書きはこうだ。
現職の米大統領が再選選挙を11日後に控えた時期、ホワイトハウス見学に来ていたガールスカウトの少女とのセックス・スキャンダルを起こし、その話がマスコミに漏れてしまう。そこでロバート・デ・ニーロ演じる“揉み消し屋”が呼ばれ、国民の目をスキャンダルからそらすためにアルバニアとの架空の戦争をでっちあげる。ダスティン・ホフマン演じるハリウッドのプロデューサーが協力し、映像合成の技術や愛国心をあおる歌を使って「非道な戦場からアルバニア国民を救ったアメリカ」というイメージを作り上げていく。その結果、大統領の支持率は89%まで跳ね上がり、再選は確実となる。だが――これ以上のネタバレは控えておこう。

一方、現実の米大統領の方は、物価問題や支持率の低下、さらにはエプスタイン・スキャンダルとの関係が取り沙汰される中で、11月の中間選挙を迎えようとしている。イラン戦争は、こうした問題から国民の関心をそらすための「目くらまし」作戦ではないか――これがいわゆる「ワグ・ザ・ドッグ」派の主張である。
もちろんトランプ大統領自身はこうした批判を完全に無視している。しかし、その疑念を補強するような出来事も起きている。
イラン戦争は「犬」か「尾っぽ」か?
米司法省はイラン戦争の最中の5日、エプスタイン事件に関する資料を追加公開した。その中には、未成年の頃にトランプ氏から性的虐待を受けたとする女性の証言記録も含まれていたのである。
「[名前削除]は、13歳から15歳の頃に、エプスタインが彼女を島から連れ出した少なくとも1つの事件を思い出した。彼は彼女を車で、あるいは飛行機でニューヨークかニュージャージーに連れて行かれた。彼女は『お金持ちの人に紹介された。お金持ち…それはドナルド・トランプでした』。[名前削除]はその場にいた他の人物の身元を思い出せなかったが、トランプが全員に部屋から出るよう要求すると、彼らは皆、部屋を出た。トランプは『小さな女の子がどうあるべきかを教えてやろう』といった趣旨の発言をした。トランプはズボンのファスナーを下ろし……(以下は報道に不適切なため省略)」
これは、公開されたFBI調書のごく一部を直訳したものである。
しかしこの話を取り上げたのは一部のタブロイド紙程度で、有力紙が本格的な記事として扱った例はほとんど見当たらなかった。ホワイトハウスが全面否定したことへの配慮もあったのかもしれない。
そのとき、映画のある場面を思い出した。スキャンダルの「目くらまし」作戦が功を奏したとき、勝ち誇ったダスティン・ホフマンが新聞を広げてこう叫ぶのである。
「ほら見ろ。戦争の記事が一面を埋め尽くして、スキャンダルの話なんて最終面の片隅に追いやられてしまったじゃないか!」
ちなみに「wag the dog」とは英語の慣用句で、本来「犬が尾を振る」はずのところを逆転させ、「尻尾が犬を振る」と表現するものだ。つまり、本来は小さな存在であるはずの「尾」が主体である「犬」を振り回すという意味で、政治の世界ではスキャンダルから目をそらすための世論操作や、些細な問題で本質が覆い隠される状況を指して使われる。
では今回のイラン戦争は、開戦に正当性を持つ「犬」だったのか。それとも米国だけでなく世界を振り回す「尾っぽ」だったのか。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
【参考記事】バイデン政権の「ワグ・ザ・ドッグ」作戦?ウクライナ危機を失地挽回に利用か 保守派の論客は「不干渉」訴え
