8月19日の記録的大雨から1カ月が過ぎた。川の氾濫で大きな被害に見舞われた秋田・仙北市西木町は今も爪痕が色濃く残り、復旧は道半ばだ。こうした状況の中、浸水被害を受けた創業約100年の旅館兼食事どころが、営業再開への一歩を踏み出した。
桧木内川が氾濫 床上70cmまで浸水

8月19日からの記録的大雨で桧木内川が氾濫した仙北市西木町上桧木内地区。雨の降り始めから1カ月が過ぎた。

創業約100年の「なか志ま旅館」は、床上70cmの浸水被害に見舞われた。
旅館に併設する食事どころでは、ボランティアの力を借りながら厨房の床の下にたまった泥がかき出され、床が張り替えられた。

旅館の3代目女将・中島勝子さん(83)は、「被害に遭った後、しばらくは旅館を見られなかった」と話すが、少しずつ前を向き始めている。
まずは売店から 営業再開への一歩
秋田市の日本赤十字東北看護大学介護福祉短期大学部の講師で、被災地での支援活動に取り組む及川真一さんは、たびたび地区を訪れ、生活再建と復旧を住民とともに考えている。

なか志ま旅館を訪れた及川さんは、中島さんに「冷蔵庫使えるし椅子とテーブルがあるから、カップラーメンからでもおにぎりでもいい。最初は売店みたいでいいから、お店やらない?」と声をかけた。
中島さんは「やりたい」と答え、まずは食事どころのホールで売店のような形で営業を始めることを決心した。

なか志ま旅館 女将・中島勝子さん:
なかなか“やる”という気持ちにならなかった。毎日考えて考えて、考えが回ってなんだか寝られなかった。でも「テントでもやるかな」と思って決めた。
9月28日には仙北市角館町から北秋田市鷹巣までを目指す秋田100キロチャレンジマラソンが開かれる。おおむね国道105号を北上するコースで、上桧木内地区の紙風船館の前も通る。中島さんは、ランナーや応援する人が休めるよう、紙風船館の前にテントを立てて店を出す計画だ。
被災者への“寄り添い”こそ重要な支援
復旧が進む中、少しずつでも日常を取り戻すために前を見据える中島さん。とはいえ、被災した人たちが一歩を踏み出すことは決して簡単なことではない。

日赤東北看護大短大・及川真一さん:
被害に遭われた人からすると、一歩を踏み出すのは大変勇気のいること。踏み出せない人も多数いる。ボランティアの人たちは一歩を踏み出せるように後押しをしたり、踏み出せない人もいるので、一緒に考えて話し合ったりという対応をしている。
被災した地域の復旧・復興に向け、寄り添うことは一つの支援の形だ。

及川さんは「この旅館・食堂は地域コミュニティーをつなぐ拠点として、この町にとって重要な場所だと感じている。地域をつなぐ、人と人をつなぐためには場所も必要になってくる。いろいろな話ができる場所として復活してほしいと願っている」と後押ししている。
(秋田テレビ)