台湾有事を巡る高市首相の答弁をきっかけに始まった中国政府による「日本たたき」。中国メディアは今も連日、高市政権への批判報道を展開し、中国政府は日本への事実上の渡航制限や水産品の輸入制限といった経済的威圧も継続している。

2012年9月の反日デモは日本車が破壊されるなどエスカレート。これに対し、現在は至って平穏だという。
2012年9月の反日デモは日本車が破壊されるなどエスカレート。これに対し、現在は至って平穏だという。
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2012年尖閣国有化の際には激しい反日デモが広がり、日系商店や飲食店の焼き討ちや日本製品のボイコットにまでエスカレートしたが、今回はどうなのだろうか。

中国人客でにぎわう日系商店

中国では、イオン、セブンーイレブン、無印良品、ユニクロといった小売りや、日本の回転寿司チェーンや、牛丼チェーン、日本式ラーメンなども市民生活に定着している。複数の企業関係者に現地の状況を尋ねると、口をそろえて「今のところ大きな影響はない」と話す。

大手小売り関係者によると、地元企業との取引やサプライチェーンも通常通り機能しており、目立った「日本製品ボイコット」といった動きもなく、店は普段のように中国人客でにぎわっているという。

航空券“強制キャンセル”で日系航空会社はむしろ需要増?

中国政府は「日本国内の安全懸念」を理由に国民へ渡航“自粛”を呼びかけているが、SNS上には日本行き航空券が“強制キャンセル”されたといった不満の投稿が数多くある。当局の要請に応じて、中国系航空会社や、旅行会社が日本便や団体ツアーを取りやめているのが実態だろう。

沖縄行きの便がキャンセルされ、補償にもなかなか応じてもらえないと不満を訴える投稿(中国SNSより)
沖縄行きの便がキャンセルされ、補償にもなかなか応じてもらえないと不満を訴える投稿(中国SNSより)

一方、日系の航空会社には特段減便要請等はないため、これまで通り日中間の定期便は飛んでおり、乗客数等に「大きな影響はない」(日系航空会社関係者)という。路線によっては中国系航空便に乗れなくなった個人旅行者らが、日系便に切り替える動きもあり、むしろ需要が増えた可能性すらあるという。

ブーメランになりかねない過度な「日本たたき」

中国人客を専門的に扱っていたホテルやツアー会社、土産店等にとっては大きなダメージだが、中国以外のインバウンド需要は引き続き旺盛なため、日本経済全体への影響は限定的といえる。2012年時に比べれば“中途半端”にも見える今回の日本たたきだが、一体なぜなのか。

その背景として専門家が口をそろえて言うのは、中国経済の先行き不透明感である。成長率は2025年も5%の目標を掲げるが、7~9月期は4%台に減速した。家計の支出意欲はふるわず、不動産投資は低迷し、消費者物価指数は2カ月連続でプラスになったものの、各種統計からデフレ傾向が鮮明である。若者の失業率も11月時点で16.9%と高止まりしており、農村部を含まない都市部のみを対象とした統計であることを踏まえると実態はさらに悪いとみられる。

“ポケット局長”こと劉勁松アジア局長は、この後日、遼寧省・大連にある日系企業を訪れたという
“ポケット局長”こと劉勁松アジア局長は、この後日、遼寧省・大連にある日系企業を訪れたという

こうした状況下で日系企業を過度に締め付けすぎれば、撤退と同時に大量の失業者を生むことになる。日本の小売・外食チェーンはすでに都市生活に深く根づき、個人消費を支える存在でもあるため、強硬措置は中国自身の景気悪化を加速させかねない。日中局長級協議で“ポケット局長”と話題になった劉勁松アジア局長が、直後に大連の日系企業の拠点を訪れ「安心して事業を続けてほしい」という趣旨のことを述べたのも、このような事情があってのことだろう。

中国にとっては4月のトランプ大統領訪中が最重要課題
中国にとっては4月のトランプ大統領訪中が最重要課題

中国は、4月にアメリカのトランプ大統領の訪中を控えており、現在は米中首脳会談に向けた水面下のディールの重要な局面にある。中国にとって最優先の外交課題はアメリカであり、このタイミングで日本との対立を過度に激化させれば、対米交渉を複雑化させる“不要な変数”となりかねない。中国が経済的圧力を一定ラインに抑えている背景には、こうした対米戦略上の計算も働いていると考えられる。

デモは“何でも封じ込める”中国の事情

中国専門家の多くは、2012年のような大規模な反日デモや暴動の再発はないとみている。

習近平政権は平時から民衆による集会やデモの兆候に敏感に反応し、強権を用いてでも未然に封じ込める姿勢を徹底している。背景には、民衆の不満が共産党批判へと転化することへの強い警戒感がある。

実際、2012年の反日デモでも、途中から統制が効かなくなり、一部で政権批判へと矛先が向かう場面も見られた。現在の景気悪化や失業者増を踏まえれば、デモを許容するリスクは格段に大きい。このため中国当局は大規模な民衆行動は許さないとみられている。

政府レベルの交流は停滞へ――半世紀続いた経済交流に暗雲

経済面の“日本たたき”は抑制的に見える一方、政府が絡む交流は停滞が避けられない。経団連のトップらで構成する日本の経済代表団は1975年以来、コロナ期を除き毎年中国を訪れ、毎回、首相や副首相級との会談も行ってきた。今年は1月20日から訪中を予定していたが、関係者は「中国当局が事前調整に応じない」として、実施の見通しが立たずにいた。

呉江浩駐日大使(在日本中国大使館HPより)
呉江浩駐日大使(在日本中国大使館HPより)

訪問団団長の進藤孝生日本製鉄相談役は年末、呉江浩駐日大使と会い、受け入れを要請したものの、「本国に伝える」との回答にとどまったという。中国では大使レベルが党指導部の方針を覆すことは困難だ。その後も状況は変わらず、訪問団を派遣する日中経済協会は大みそかに延期を決定。今後の日程は未定だといい、長年続いた交流が途絶える可能性が現実味を帯びつつある。

高市政権の“安定度”次第で突然態度が変わる可能性も

2012年の尖閣国有化、翌2013年の安倍首相(当時)による靖国参拝もあって、日中間では2年半も首脳会談が途絶えたことがある。当時の中国指導部には、「対日圧力を強めれば安倍政権は動揺し、短命に終わる」といった読みもあったとされる。しかし実際には長期政権となり、2017年にはトランプ政権が誕生して米中対立が激化。中国は日本を「抑え込む対象」から、「実利的な協調相手」に位置づけを改めた。

現時点での中国は、高市政権を「短命」と見なし、距離を置く構えだ。他方で、日中は深い経済的相互依存関係にあるため、停滞しながらも経済的な関係は維持されるだろう。

政権の安定度がカギを握る
政権の安定度がカギを握る

中国は常に政権の安定度と日米同盟の強度を計算に入れて対日戦略を調整してきた。今後、高市政権が“予想外に”安定し、日米同盟がより強固となれば、中国は「日本との関係を安定させた方が利益になる」と判断を転換する可能性がある。中国は往々にして「忘れた頃に態度を変える」外交スタイルをとるため、冷却状態が固定化するとは限らない。関係改善は突然動き出す可能性もあるのだ。
(フジテレビ経済部長(元北京支局長)高橋宏朋)

高橋宏朋
高橋宏朋

フジテレビ経済部長。大学卒業後、山一証券に入社。
米国債ディーラーになるも、その後経営破綻。
フジテレビ入社後は、社会部記者、政治部記者、
FNN北京支局長、政治デスクなどを経て現職。