身元確認さえできれば、委任契約によって、その後のことをすべてエンディングセンターがおこなう手はずになっているのに、それができないため、警察・役所・エンディングセンターの三者は顔を見合わせ、もどかしい時間を過ごした。

結局、警察が最後にとった策は、歯型の照合であった。古川さんの場合、歯型で身元確認ができた。かくしてエンディングセンターでは以後、委任契約の際に「かかりつけ医(歯科医・他)」を書いてもらうことになった。
各都道府県には「警察歯科医会」と呼ばれる組織があって、警察歯科医は警察署からの依頼を受け、身元不明のご遺体の「歯科所見」(歯や口の中の状態)を記録し、一方で、その方が通っていたと考えられる地域の歯科医院に連絡をとり、生前のカルテやレントゲン写真などを提供してもらう。
それらのデータがそろったところで遺体の歯型情報と照合して、該当者本人の確認をおこなっている。
DNA鑑定もあるが…
そのほかの身元確認方法に、DNA鑑定がある。ただしこれは、親族のDNAを採取して血縁関係を照合する方法なので、ご遺体の血縁者ではないかと思われる候補者がいなければ、ご遺体だけのDNAでは判定できない。DNA鑑定は、遺体の損傷が激しい場合などにおこなわれ、最短で2週間程度、長引く場合には1ヵ月以上かかることもある。
次に、検死は、検視・検案・解剖の3つに分かれている。検視では、検察官や検視官が、遺体の状況や周囲の状況を詳しく調べ、事件性の有無を判断する。
検案は、警察医が、遺体の外表面を検査し、病歴や死亡状況から医学的見地で死因や死亡時刻などを推定する。解剖は、検案で死因が特定できない場合や、事件性が疑われる場合に、医師が遺体を切開して、内部の状態を詳しく調べる。