自宅の誰もいないところで亡くなっていると、死亡原因が事件性のあるものかどうかを調べるために、ご遺体は警察署に運ばれ検視がおこなわれる。その一環として実施されるのが身元確認(本人確認)である。身元確認をする理由の一つは、身元を特定し、ご遺体を家族に引き渡すためである。

親族でなければ確認できない身元

古川さんの場合、前日一緒にいた友人も、確かにこのご遺体が古川さんであると断言できるし、またエンディングセンターも会員の古川さんだと証言できるのに、親族でもない者の証言では身元確認にはならないのだ。

刑事ドラマを思い浮かべるとわかりやすい。遺体が発見されると、名刺や携帯電話など、所持品や指紋などから身元が判明し、家族に連絡をすると、家族が警察署の霊安室に駆けつける。そして安置されているご遺体の顔を見て確認するというパターンだ。

エンディングデザイン研究所の代表を務める井上治代さん
エンディングデザイン研究所の代表を務める井上治代さん

では、ひとり暮らしで家族がいない場合はどうなるのか。

遺体の身元がわからなければ、当然ながら引き渡しはできない。いくらエンディングセンターが死んでからのことを委任契約によって受任していても、そのことを警察も十分理解していても、ご遺体が契約者本人であることが判明しなければ、何も動くことができないのだ。

警察も困った。そこで、エンディングセンターが本人から提出されていた戸籍謄本を警察に見せ、警察が親族に連絡をとった。その結果、親族は誰も身元確認および遺体の引き取りには来なかった。

身元確認ができない場合は、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」によって、遺体があったところの役所の長の責任で火葬し、しばらくは役所等で遺骨を預かり、やがて無縁塚などに葬られる。

したがって古川さんの検視に関わった警察署は、地元の役所に、このまま身元がわからなければ、役所に遺体を送ると、連絡した。