日本人メジャーリーガー12人の活躍を称えるMLB公式のマンホールカバーが完成した。
製造を担ったのは、広島の町工場「友鉄工業」。
野球と“ものづくり”という異なる世界に共通する「唯一無二」への情熱が、鉄の塊に命を吹き込んだ。
MLBが広島の町工場に白羽の矢
「最初は詐欺かと思いましたよ」
MLB(メジャーリーグ・ベースボール)からの連絡に、友鉄工業広報室・兒玉誠室長は笑いながらそう振り返る。

ドジャースの大谷翔平選手やカブスの鈴木誠也選手など、日本人メジャーリーガー12人の活躍を称える特別なマンホールカバー。その製造を、アメリカのMLBが広島の町工場に託したのだ。

「最初に電話がかかってきたとき、MLBと言われても『はっ?』て、MLBがすぐ頭に入ってこないんですよ。なんで広島のそんな大きくもない会社に?という混乱ばかりでしたね」
戸惑いはやがて確信に変わる。
緻密なデザイン、鉄を操る高温の鋳造技術。まるで大谷翔平選手の完璧なスイングのように、ひとつひとつの工程を緻密に積み重ねるものづくり。そこに、ベースボールと鋳物――まったく異なるフィールドに通じ合う「唯一無二」の精神があった。
二刀流と職人魂が“共演”?
友鉄工業は1946年創業、広島市安佐北区に本社を構える老舗の鋳物メーカーだ。

上下水道のマンホールカバーや船舶部品、建築資材などを製造。長年培った砂型鋳造の技術を生かし、現在では自治体からの依頼でデザインマンホールの製造にも数多く携わっている。“町の足元を支える名脇役”として地域インフラを陰で支えてきた。
そんな町工場が、世界最高峰のMLBとつながった。
MLBが6月11日に公開した動画には、選手たち以上に製造の様子や職人たちの姿がクローズアップされている。
「ただ闘っているわけではなく、唯一無二のものをつくる」
そのナレーションに嘘はない。

緊張感と誇りが漂う製造現場に、大谷選手がアイコンタクトで共演したかのような演出も。
撮影に協力した現場も、動画を見て驚いている。
「こういうふうに使われるとは思っていなかったので…。友鉄工業とMLBがコラボしたような一体感がありますね」
兒玉室長は最近、MLBのニュースが他人事とは思えないほど気になるようだ。
ベースボールと鋳物の「唯一無二」
マンホールカバーの製造は、砂の鋳型に約1500℃の鉄を流し込むことで、表面に凸凹の模様を浮かび上がらせる。プロのデザイナーと協力し、色味の調整にも苦労した。

「ダルビッシュのマンホールカバーは特に注目してほしいです。デザインが細かすぎて、本当に大変だったんですよ」と兒玉室長。
まるで千手観音のようなデザイン案を基に、ダルビッシュ有選手の“11球種”を表現している。
小さな点ひとつの凹みも見逃さない技。職人としての意地と誇り。まさに男たちの勝負だった。
MLB担当者からは「日本のものづくりはすごい」と賛辞も寄せられた。動画公開後、友鉄工業には全国から問い合わせが殺到しているという。

このマンホールカバーは6月16日から、大谷翔平選手や菊池雄星選手、佐々木朗希選手の出身地・岩手県をスタート地点として、12選手の出身地やゆかりの地に設置される予定だ。
マンホール。普段は誰も気にとめない足元に、世界とつながるドラマがあった。広島の技術が、メジャーリーガーたちの伝説を刻む――その鉄の重みはきっと未来に残るだろう。
(テレビ新広島)