■26頭!たくさんの赤ちゃんが生まれたところ
パンダの飼育でも有名な和歌山県のアドベンチャーワールドは、26頭ものラッコの赤ちゃんが誕生した場所です。
当時ラッコたちの愛称は公表されていませんでしたが、2025年1月現在鳥羽水族館にいるキラも、アドベンチャーワールドで生まれたラッコです。2025年1月に亡くなった、マリンワールド海の中道にいたリロもここの出身でした。
ラッコを迎える手段は輸入のみだったが
【2003年:日本の水族館がラッコを迎えられなくなった】
日本では100年以上前から野生ラッコの捕獲が禁止されているため、水族館に新しいラッコを迎える方法は輸入しかありません。
しかし、原油輸出事故も大きなきっかけになり、アメリカは1998年に保護法を強化。輸出するためのラッコの捕獲を禁じました。
カナダやロシアでも法律でラッコを保護し、2003年のロシアからの輸入を最後に、日本は新しいラッコを迎えていません。
日本の水族館は一致団結して繁殖の取り組みなどを行いましたが、なかなかうまくいかず、ピーク時の1994年の122頭から、IUCN(国際自然保護連合)によってラッコが絶滅危惧種に登録された2000年には88頭、その10年後には34頭、そして2025年1月現在では2頭になってしまいました。
2頭はどちらもメスなので繁殖を見こめず、日本の水族館でラッコを見られなくなる日が近づいています。

【2025年1月現在:日本の水族館にいるのは1館2頭】
「日本の水族館でラッコが見られなくなる日が近づいている」と、たくさんの注目を集めているラッコ。でもその背景には、野生のラッコを守るための取り組みがあります。
水族館のラッコを通して、野生のラッコが置かれている状況についても考えてみることが大切なのかもしれません。
どうして減るばかりなの?
(1)新しいラッコを迎えられない
日本では北海道東部沿岸付近に野生ラッコがくらしており、近年その数は増えています。ただ、もともと法律で捕獲が禁止されているので、日本の水族館がラッコを迎える方法は輸入のみの状況です。
しかし、大きな原油流出事故などがきっかけとなり、アメリカで輸出のためのラッコの捕獲が禁止されました。また、ロシアやカナダでも法律でラッコが保護されているので、日本の水族館は実質新しいラッコを迎えられなくなったのです。
(2) 飼育下での繁殖力の低下?
ラッコはもともと繁殖力の強い動物です。輸入がたくさん行われていたときは、日本でもたくさんの赤ちゃんが生まれました。
しかし輸入がストップしたことで、野生出身のラッコが入ってこなくなり、飼育下の環境で長く過ごすラッコが多くなったからか、繁殖や子育てがうまくいかないことが増え、約30年で122頭からメス2頭にまで減ってしまったのです。
飼育下の限られたラッコだけだと、血縁が近くなってしまうのもひとつの問題でした。

今泉忠明
1944年、東京都生まれ。哺乳類動物学者。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業。上野動物園の動物解説員、ねこの博物館館長、日本動物科学研究所所長などを歴任。『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)、『パンダ沼への招待状』(世界文化社)など、多くの書籍監修を手がける。