水族館で飼育員が餌をあげている場面を見かけることがあるだろう。その様子は来場者としては一つのイベントとして楽しむことができる。

しかし、飼育員からすると、生きものが食事をする時間は、観察と格闘の時間だという。

元水族館飼育員で現在はイラストレーターとして活躍する、なんかの菌さんのコミックエッセイ『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』(集英社インターナショナル)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

給餌というデュエル

水族館で遭遇したらうれしい瞬間、それが飼育員の給餌(餌やり)シーンだ。むろん飼育員の食事風景ではなく、飼育員が生きものに餌をあげているようすのほうである。

掃除やレイアウト変更はなるべくお客さんがいない時間帯に済ませるが、給餌はむしろお客さんに見てもらう方向で、イベントとして設けている園館もある。生きものの摂餌(せつじ)行動(餌を食べる行動)では、ふだんは見せない動きを観察できるためだ。

給餌は、健康的に生かすのももちろんだが、体調を確認したり、コミュニケーションを図ったりする目的もある。餌の中にサプリや薬を仕込んでやることもある。

カワウソはそれに気づくと器用に取り出し、飼育員に返してくるのだとか。餌を生きているかのように動かして騙だまし、食いつかせることもある。もはや釣りだ。給餌は飼育員の技と生きものの本能とのガチンコ勝負的なところがある。

『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』(集英社インターナショナル)より
『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』(集英社インターナショナル)より
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『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』(集英社インターナショナル)より
『水族館飼育員のただならぬ裏側案内』(集英社インターナショナル)より

偶然給餌シーンに遭遇すると、この戦いを固唾(かたず)を呑(の)んで見守ることになる。思わず「食べた!」「惜しい」「後ろ後ろ~!」などと声が出てしまいそうになるが、両者の集中力を乱さぬよう、静かに応援したいものである。