海面にぷかぷかとあお向けで浮いて漂うラッコ。お腹の上に石や貝を載せている、そんなラッコのリアルな姿やイラストも見たことがあるだろう。
「ラッコってかわいい!」と思ったら、より深く知りたくなるかもしれない。彼らのかわいさだけでなく、生態について知ることができる、ラッコ最強の入門書『おいでよ!ラッコ沼への招待状』(世界文化社)。
監修を務めた動物学者の今泉忠明さんに、本書でも取り上げられているラッコの生態トリビアの一つ、「なぜラッコは道具を使うようになった?」の理由を教えてもらった。
その前にまずはラッコの食事から触れていく。
貝しか食べられる物がなかった
ラッコをイメージしたときに「お腹の上に石を載せて貝を割っている」姿を思い浮かべる人は多いだろう。それは想像通りで、ラッコは貝類をよく食べる。
今泉さんはラッコが貝類を食べるようになったワケを「泳ぐのが速くないから」だと言う。
「海べへ移動して北太平洋にたどり着いたラッコにとっての食べ物は、貝のほかにウニ、カニしかありませんでした。魚がとれるほど速く泳げません。昔の人間もそうでした。走るのが遅くて弱い人間もタンパク質は貝から得ていたことから、縄文時代に貝塚があるのでしょう。貝は逃げませんからね」
数百万年前に海へ進出したラッコの祖先だったが、すでに海で暮らし、魚のほかにタコやエビも食べるアシカやアザラシとは主食が違うことから、食べ物の争奪戦は起こらない。

「ラッコの祖先は道具を使うことで、さらに食事の効率を上げたのでしょう。石を使って貝をとるテクニックを取得したのは、正確にはいつなのかはわかりません。ただ、彼らが生き延びたのはそのおかげかと思われます」
その道具使いは、貝を取るときに発揮されるという。
「海底にへばりついたアワビは取りにくいので、石を使います。端をちょっと割るとアワビが剥がれます。人間は『いそがね』を使いますよね。ラッコは石を使って端を割ることでアワビがとれることを知ったのです」
まわりのまねをして得た「道具使い」
道具を使い食べ物をとる。それが食べるときに石を使って、カニの甲羅や二枚貝を割ることへ発達する。それは本能というよりも、母親やまわりにいる他のラッコをまねしたりした結果かもしれないという。