アメリカのトランプ前大統領が激戦州ペンシルベニアでの演説中に銃撃された暗殺未遂事件から4カ月もたっていないが、そんなことが遠い過去のようにトランプ氏は健在ぶりをアピールしている。
この記事の画像(11枚)今回の大統領選挙ではさほど争点になっていないが、銃を所持する権利を定めた「合衆国憲法修正第2条(Second Amendment)」を強硬に擁護する有権者は、トランプ支持者に多い。
10月、ペンシルベニア州で「銃所持の権利」と「トランプ支持」をテーマとした宗教団体のイベントでその熱量の高さがうかがえた。
会場に入ると目に入ってきたのがトランプ氏のグッズが売られている出店。7月13日にトランプ氏が銃撃された際に撮られた有名な写真が印刷された旗は20ドル(日本円で約3000円)で、売れ行きはよいという。
また、トランプ氏が銃弾に倒れなかったことをイメージしているのか、銃弾がめり込んだグラスも売られ、暗殺未遂事件をむしろ逆手に取って支持層の拡大に利用しているようにも見えた。
ボトルがトランプ氏の人形になっている「トランプ蜂蜜」を売っていたトッド・ゲアハートさんは、暗殺未遂事件の日、ステージのそばにいたという。
「連続発砲で花火ではないとすぐにわかった、悲鳴があがっていた…世の中のトランプ嫌いったらないよ、安全な世界がほしいだけなのに」と当時の状況について話した。
蜂蜜の収益は、2021年1月6日の議会襲撃事件に関与したとして収監されているトランプ支持者らに寄付されるという。
会場の大きなテントの中ではトランプ氏を支援する演説が続き、中にはAR15型ライフルを突き上げながら歓声をあげる男性も。AR15型ライフルは、トランプ氏の銃撃に使われたタイプの銃だ。
男性は、自分で組み立てたという銃を見せ「AR15がトランプ前大統領を撃ったんじゃない。引き金を引いた人だ」と胸を張った。
米議会襲撃現場にいた文鮮明氏の七男に聞く…「選挙後」のシナリオ
このイベントを主催したのは「サンクチュアリ教会」。
聖書に出てくる「鉄の杖」が「AR15型ライフル」だと解釈し、「銃を持つ権利」を前面に出して擁護する共和党を支持している。
設立者の文亨進氏は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の創始者である文鮮明氏の七男で、今の教団からは離れ、ペンシルベニア州で自身の教会を率いている。
45歳の文氏に直接、話を聞いた。
「ルイ・ヴィトン」かと思えたパーカーのデザインは、よく見ると「銃弾」や銃を所持する権利を定めた「合衆国憲法修正第2条(Second Amendment)」を意図して「II」と「α」を組み合わせたものだった。
――トランプ氏は教団が崇めるAR15型ライフルによって撃たれたが?
あの時、神がトランプ氏を守ったのだと思います。秒速1036メートルの弾丸は誰も避けられませんよ。ですから神の手以外の何ものでもありません。
銃は日本のサムライの刀と同じで、単なる物体です。善人でも悪人でも扱えます。権力を常に牛耳ろうとする邪悪な政府と対等になるためのアイテムです。
――あなたは1月6日の議会襲撃事件の際、現地から動画を投稿していたが、今回の選挙でトランプ氏がハリス副大統領に負けた場合、同じようなことが起きると思うか?
まあ、大差で勝つことを祈るだけですよ。神は暗殺未遂事件で奇跡を起こしましたし、奇跡の規模でいうと大統領選挙の勝利はそれより小さいものです。民主党に争う余地がないくらいに勝つことです。
――ハリス氏が勝利したら?
(少し考えて…)明らかに結果を争うことになりますね。訴訟も山ほど起きると思います。どのように展開するのか見てみないと。いずれにしても地滑り的勝利を祈っています。
選挙結果によって“1月6日”が繰り返されるのかは、明言を避けた形だ。
4年前の激戦よりもさらに激しく両候補が拮抗する中、すでに期日前投票や郵便投票をめぐる訴訟が複数起きている。首都ワシントンなどは暴動に備えて厳戒態勢で、早くも不穏な空気が流れている。
(取材・執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子)