サバなどの生魚を食べた際に胃や腸に激痛が走る食中毒「アニサキス症」についてご存じの人は多いかもしれない。では、アニサキスによるもう一つの健康被害である「アニサキスアレルギー」をご存じだろうか。
アニサキスアレルギーに詳しい昭和大学医学部准教授の鈴木慎太郎さんらが行った調査では、日本では人口の0.9%(約100人に1人)がアニサキスアレルギーと診断されるのではないかと推測している。
この記事の画像(6枚)鈴木さんによれば、発症すると、刺身だけでなく加熱や冷凍の魚を食べてもアレルギー反応が出る可能性があるという。重篤な場合はアナフィラキシーショックを起こすこともあるかもしれず、その場合は救急外来の受診が必要になる。鈴木さんに詳しく解説してもらった。
死んでいても症状が出る
「アニサキスは、サバなどの魚に寄生する寄生虫として知られています。生きたアニサキスが体内に入ると、胃や腸の粘膜にもぐり込んで激痛などを引き起こす可能性があります。これがアニサキス症です。
一方で、アニサキスアレルギーは、アニサキスが体内に入ることによって起こるアレルギーのこと。アニサキス症との大きな違いは、アニサキスが死んでいてもタンパク質の分子が残っていれば発症しうるという点です」(以下、鈴木さん)
つまり、アニサキス症は加熱や冷凍でアニサキスを殺すことによって防ぐことができるが、アニサキスアレルギーの場合は、中途半端な加熱や冷凍では、アニサキスのタンパク質が壊れずに残ってしまうこともあるため、アレルギーが発症する可能性があるのだという。
どのような症状が出るのだろうか。鈴木さんによれば、いくつかのパターンがある。
「典型的な症状があるわけではないのですが、おそらく多いのはじんましんですね。腹痛が出る場合もあります」
なかでも一番注意が必要なのは、「アナフィラキシー(ショック)」だと鈴木さんは言う。
「アナフィラキシーは、息が苦しくなる、脈が速くなるといった症状が特徴です。そしてより重篤なアナフィラキシーショックは、血圧が下がり意識を失ってしまうことがある状態です。これまで統計上、アニサキスアレルギーによるアナフィラキシーショックで亡くなった人はいませんが、駅のホームや料理中に刃物を持った状態で倒れてしまうなど、二次被害などにより生命の危機に瀕した事例も経験しています」
なりやすい人は分かっていない
鈴木さんは「日本では人口の0.9%(約100人に1人)がアニサキスアレルギーと診断される可能性がある」と推測するが、どのような人がなりやすいなど、傾向はあるのだろうか。
「アレルギー発症のメカニズムは完全に解明されていないので、断言するのが難しいのです。たくさんアレルゲンに触れている(食べている)人の方がなりやすいという傾向はありますが、同じ物を食べていて発症する人もいれば、しない人もいます。 1回も触れていない人がならないわけでもありません。エビ・カニアレルギーの人が、アニサキスのアレルゲンに反応してしまうというパターンもあります。また、アニサキス症に感染した人が発症しやすくなるという説もありますが、はっきりと連続した関係があるかどうかは分かっていません」
魚介が食べられなくなる?
じんましんや腹痛や、酷ければアナフィラキシーショックになるというアニサキスアレルギー。症状には軽症から重症まであるようだが、もしなってしまった場合はその後、魚を食べてもいいのだろうか。鈴木さんは、「加熱すればOKなど、医師によって方針は違いますが…」としつつこう答える。
「アニサキスアレルギーの症状が出た方、特にアナフィラキシーやアナフィラキシーショックを起こした方には、原則、魚介類は一定期間避けてもらうようにしています。その理由は、患者さんによって、症状の種類や、起きやすさ、軽さ・重さが全く違い、現在の医学ではどの人にどのような症状が出るのか予測が不可能だからです」
では、治療方法はあるのだろうか。
「アレルギー全般に言えることですが、現時点でアレルギーを根本的に治す薬はありません。私の場合、一定期間魚介類を避けた後、患者さんの希望も聞きつつ、少しずつ食べて慣れる治療をしています」
繰り返し症状が出れば受診を
最後に、どのような症状が出ればアニサキスアレルギーを疑うべきなのか。また、受診の目安について聞いてみると、次のようにアドバイスをしてくれた。
「サバなどのアニサキスがいる可能性がある魚を食べた後に、じんましんや腹痛が出るということを繰り返していれば、アレルギー専門医を受診してください。食後数時間から半日後に発症することもあります。また、原因は何であれ、アナフィラキシーやアナフィラキシーショックになった人は救急外来を受診してください。そのうえでアレルギー専門医を受診しましょう」
特効薬がないため、一度発症してしまうと魚介類を避けたほうがよいというアニサキスアレルギー。魚介好きにとってはつらい状態だ。しかし鈴木さんは、「アレルギーの研究が進めば、どの程度までなら食べてOKかわかるようになるかもしれない」という。医学の進歩に期待したい。
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【鈴木 慎太郎】
昭和大学医学部医学教育学講座、医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門准教授。医学博士。日本アレルギー学会専門医・指導医。専門は食物アレルギー、アニサキスアレルギー、アナフィラキシー、動物・昆虫アレルギー、薬物アレルギー・過敏症、気管支喘息など。重症のアナフィラキシーを生じた患者や、アナフィラキシーを繰り返す患者、アニサキスアレルギーの患者の診療を行う。中学生~高校生・思春期の食物アレルギー、ぜん息の患者も受け入れている。