虚偽の申告で運転免許を更新した上、4日後に死亡事故を起こした男の公判が静岡地裁浜松支部で始まった。男は運転の前からてんかんによる発作の兆候を認識していたものの、「責任能力はなかった」と無罪を主張している。
嘘が招いた取り返しのつかない事故
起訴されているのは浜松市中央区に住む無職の男(46)で、2023年7月6日、運転免許証の更新にあたって質問票に虚偽の事実を記載して提出した道路交通法違反の罪に問われている。
また、4日後の7月10日には、浜松市内で車を運転中に持病のてんかんによる発作で意識を失い、赤信号で止まっていた車に追突して、運転していた男性(当時54)を死亡させたほか、はずみで衝突したトラックの運転手の男性(当時42)に打撲などのケガをさせたとされている。
この記事の画像(5枚)起訴状によれば、男は過去5年以内に持病の発作により意識を失ったことがあり、医師から車の運転を止めるよう言われていたにも関わらず、免許更新の際に提出が必要な質問票に記された「過去5年以内において、病気(表記の治療に伴う症状を含みます。)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある」、「過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が、一時的に思い通りに動かせなくなったことがある」、「病気を理由として、医師から、運転免許の取得又は運転を控えるよう助言を受けている」との質問に対して、いずれも「いいえ」と虚偽の回答をしていたと見られている。
提出が義務となった質問票とは?
警察庁によれば、質問票は2014年6月に改正道路交通法が施行されたことに伴い運転免許の取得時や更新時に提出が義務付けられ、当然のことながら提出がない場合には手続きすることが出来ない。
これは“一定の病気”等に関わる運転者対策として実施されたもので、虚偽記載には罰則があり、発覚した場合には「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられる。
なお、一定の病気とは統合失調症・てんかん・再発性の失神・不整脈・無自覚性の低血糖症・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害・そううつ・脳卒中・認知症などを指すが、質問票の記載内容によって直ちに運転免許が取り消しになるわけでなく、最終的には医師の診断が運転可否の判断材料となる。
仮に回答や医師の診断を踏まえて取り消し等になった場合でも、病状が回復し運転免許を再取得することが出来る状態になった際には、取り消しとなった日から3年以内に限って試験の一部が免除される。
危険運転致死傷罪について無罪主張
2024年8月6日から静岡地裁浜松支部で始まった公判に、男は白い半袖シャツにメガネとマスクを着用して出廷した。
そして冒頭、裁判長から起訴内容について問われると、虚偽の申告によって免許を更新したことについては「間違いありません」と認めたものの、事故当日は運転前からてんかんの発作があったため、運転するという判断や行為に至ったことに関しては「責任能力がなかった」と主張。
一方、検察によれば、男は中学生の時にてんかんを発症し、担当する医師から運転免許を取得しないよう言われていたほか、免許を取得した後も運転しないよう再三にわたって指導を受けていたという。
その上で、今回の事故直前に免許を更新した際には、発作によって意識を失った経験が直近にあったことを思い出しながらも、「正直に書けば免許を取り上げられ、一生運転が出来なくなる」と考え、虚偽の申告をしたと指摘した。
さらに、検察は男が事故を起こした当日、職場でてんかんによる発作の兆候があったことから仕事を早退し、悲劇はその直後の出来事だったことも明らかにしている。
6日の法廷では、男が職場を車で出発し、事故を起こすまでを記録したドライブレコーダーの映像が公開されたが、男はじっと目を閉じ、うつむいたままだった。
この時、男は何を思っていたのだろうか。
次回の公判では、弁護側の証拠調べが行われる予定となっている。
(テレビ静岡)