1966年に静岡県清水市(当時)で起きた強盗殺人・放火事件、いわゆる袴田事件をめぐっては、現在、死刑判決を受けた袴田巖さんの再審公判が行われている。こうした中、弁護団長を務める西嶋勝彦 弁護士が1月7日に亡くなった。

弁護士歴は約60年 各地の事件で弁護活動

西嶋弁護士は1941年、福岡県の生まれ。弁護士としてのキャリアを歩み始めたのは1965年で、今からもう60年近く前のことだ。

山口県で高齢夫婦が殺害され、犯人から共犯として名指しされた4人が無期懲役や死刑判決を受けた後、第3次上告審で無罪を言い渡された八海事件(1951年)に携わったことをきっかけに冤罪事件や再審に関わるようになり、1954年に静岡県島田市で起きた幼女誘拐殺人・死体遺棄事件、いわゆる島田事件の再審公判では弁護団の事務局長として無罪を勝ち取った。

日本の司法制度において死刑判決が確定した事件をめぐる再審は袴田事件を除くと過去に4例のみ。島田事件も含めていずれも無罪判決が出されていて、4大死刑冤罪事件と言われている。

袴田事件に携わること30年あまり

袴田弁護団に加わったのは1990年。西嶋弁護士の実績に加え、当時の弁護団長が高齢だったこともあって、現在も弁護団の一員として活動する田中薫 弁護士などが熱烈なオファーを出し、参加してもらったそうだ。

第1次再審請求で静岡地裁に最終意見書を提出した後の西嶋弁護士(1993年10月)
第1次再審請求で静岡地裁に最終意見書を提出した後の西嶋弁護士(1993年10月)
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その後、袴田事件の第1次再審請求について、静岡地裁の決定を不服とする弁護団の即時抗告を東京高裁が棄却した後の2004年暮れ頃から団長となり、弁護団や支援者を引っ張ってきた。

最高裁に補充書を提出した後の西嶋弁護士(2007年5月)
最高裁に補充書を提出した後の西嶋弁護士(2007年5月)

ただ、4年ほど前からは間質性肺炎を患い酸素吸入のほか、車いすでの生活を余儀なくされることに。

姉・ひで子さんと共に再審初公判に向かう西嶋弁護士(2023年10月)
姉・ひで子さんと共に再審初公判に向かう西嶋弁護士(2023年10月)

それでも2023年10月から始まった袴田巖さんの再審公判には主任弁護士として東京から毎回駆け付け、最終弁論では法廷に立つ予定だったという。

小川事務局長「判断が的確で重みある」

西嶋弁護士の訃報に接し、袴田弁護団の小川秀世 事務局長は13日に会見を開き、「あれこれ言う人ではなかったが、判断が的確で重みがあり、収拾がつかない時に西嶋先生が『こういう判断でいこう』と我々を引っ張ってくれてた。弁護団の会議の中で、重要な決断を最終的にするというところが非常に印象に残っている。西嶋先生の一言にみなが共感して決まるという場面が何度もあった」と振り返る。

亡くなる2日前にオンラインで行われた弁護団会議では元気そうな様子だったといい、「1月5日の段階ではしっかりしていたので、こんなにも早く亡くなるとは思っていなかった。たぶん今年(2024年)の夏過ぎには必ず無罪判決を得られると我々は確信していて、西嶋先生も本当にそれを待っていたと思うが、そういう意味では本当に残念。西嶋先生としてもその点は悔しい思いだったと思う」と肩を落とした。

西嶋弁護士の訃報を伝える小川秀世 弁護士(1月13日)
西嶋弁護士の訃報を伝える小川秀世 弁護士(1月13日)

そして、「西嶋先生は再審公判が始まる時点、さらに言えば再審が確定した時点から早く判決をもらいたいと何回も言っていた。それは袴田さんにとって重要なことでもあるし、自身もどうなるかという不安もあったと思う。結局、検察が有罪立証するということで延び延びになったことを非常に残念がっていた。検察官が罪深いことをした」と非難。「ひで子さん(袴田巖さんの姉)も巖さんも元気である一方、高齢であることは間違いない。そういう意味で『1日も早く(判決を)』と願っている。何があってもおかしくない」と口にした。

姉・ひで子さん「ありがとうしかない」

一方、ひで子さんは2023年12月20日に行われた再審公判の際の控室での出来事に触れた。

「80歳を過ぎてから耳が遠くなり困っている。先生はどう?」と尋ねると、西嶋弁護士は「僕もちょっと遠くなっている」と返しつつ「ひで子さん、これで人間じゃん。化け物だと思っていたが人間だ」とおどけて見せ、みんなで笑ったそうだ。

会見にリモート参加した姉・ひで子さん(1月13日)
会見にリモート参加した姉・ひで子さん(1月13日)

それだけに「12月の裁判の時には裁判所の控室で冗談を言って笑って話をした。だから、そんなに早く逝ってしまうとは思わなくて」と驚きの表情を浮かべた。

その上で「たぶん無理して静岡まで来ていたのかと今は思う。長い間、本当にいろいろお世話になった。『ありがとう』ということしかない。無罪であるということを巖ももちろんですが、西嶋先生にも聞いてもらいたかった。これは残念です」と悔しい思いを吐露し、「とても良い方。はじめは怖いと思ったけれど、そんなことは絶対ない。とても優しくて良い方でした」と故人を偲んだ。

弁護団「袴田さんに本当の自由を」

2024年1月16日。6回目の再審公判が行われた後の弁護団会見で、西嶋弁護士に対して一員になってもらえるよう声をかけた田中薫 弁護士は「私は『西嶋学校』の生徒。えん罪事件、刑事事件のやり方を1から教えてもらい、さらに記録の読み方、そして裁判になった時に何を主張するかということを教えてもらった」と感謝し、こう述べた。

西嶋弁護士への思いを口にする田中薫 弁護士(1月16日)
西嶋弁護士への思いを口にする田中薫 弁護士(1月16日)

「我々が力を合わせながら、袴田さんに本当の自由が来るように頑張らなければいけないと思っているし、それが西嶋先生に対する恩返しだと思っている」

再審公判は5月下旬に結審し、判決は夏以降に言い渡される見通しとなっている。

(テレビ静岡)

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