東京湾の下を通る首都高のトンネル。こうした「水底トンネル」で大規模な火災が起きると、トンネルが水没する大惨事となる恐れがあり、危険物を積んだ通行が制限されている。しかし、タンクローリーが日常的に違法通行していたことが、FNNの取材で明らかとなった。危険な輸送が発覚してこなかったのか背景に迫ると、チェックが十分に行われていない実態が見えてきた。
軽油の表示が急に「空欄」…
まだ静けさに包まれた午前5時、一台のタンクローリーが出発した。

危険物を積んだ車が水底トンネルを違法に通行しているとの情報を得て、記者は横浜市にある石油卸会社を出発したタンクローリーの追跡を開始した。
引火しやすい危険物などを運ぶ際は、種類や量を表示することが義務付けられている。この車は、軽油を3キロリットル積んでいると示していた。

川崎市にある2つ目の納入先で作業車への給油を終え、次に向かうタンクローリー。すると、車の後ろで危険物を表示する板には、先ほどまであった「軽油」という表示がなくなっていた。
3キロリットルあったはずの軽油は空欄に。空に近いはずなのに、自分の会社がある横浜市へ帰るのではなく、逆方面へと向かっていた。

そのまま、日本有数の貿易港・川崎港の下をくぐる「川崎港海底トンネル」が近づく。
道路法では、海や川の下を通る水底トンネルについて、ガソリンは200リットル、軽油などは1000リットル以上を乗せて通行することを禁止していて、違反すると6カ月以下の拘禁刑などに処される。

それにもかかわらず、タンクローリーはそのままトンネルへと入っていった。
トンネル火災、最悪水没の危険も
そもそも、なぜ水底トンネルには規制があるのか。まず、トンネル火災に大きな危険があるためだ。
2023年、兵庫県の山陽自動車道のトンネルでトラックが炎上し、他の車にも次々と燃え広がり、合わせて23台が焼けた。火は40時間燃え続け、トンネルは激しく損傷。復旧に3カ月かかった。
火災学の専門家によると、こうしたトンネル火災は延焼しやすく、「何らかの原因で着火すると、爆発が起こる」とし、広い空間に比べると避難が難しい点があるという。

また、水底トンネルでの火災の危険性についてトンネル工学の専門家は、内側のコンクリートが被害を受けると水や土砂が侵入し、最悪の場合は水没する恐れがあると指摘する。
