防衛増税で岸田不信任?

岸田文雄首相が防衛力強化のために増税すると言い出したことに自民党内では、安倍晋三元首相に近かった議員を中心に反発が強まり、「不信任に値する」などの強硬論も出ていたが、増税時期を明示せず、来年の通常国会には法案を提出しないことでようやく決着した。

自民・税調小委員会(15日)
自民・税調小委員会(15日)
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1兆円強の増税分のうち法人税8000億円強、たばこ税2000億円、所得税が2000億円程度の増税は一応決まったが、来年以降も議論が続くということで先送りと言っていいだろう。

今回特に問題となったのは所得税増税で、新たに1%のいわば“防衛目的税”を創設し、その分は、東日本大震災の後に導入した「復興特別所得税」を引き下げる。その代わりに復興税の期限を当初決めた2037年から延ばすというもの。

復興税を「借りる」のは筋悪

自民党の税調では被災地選出の議員から異論が噴出、メディアも「被災地軽視だ」と反発した。ただ半分を防衛費に「貸してあげる」だけであとから返してもらえるのだから、別に被災地軽視ではないと思う。

ただ「復興のお金を借りてくる」というのはあまり見栄えのいい話ではない。この案を出した財務省は「いい考えだ」とドヤ顔をしているかもしれないが、ただでさえ防衛費増額にケチをつけたい人が沢山いるのに、この話はいかにもツッコミどころ満載だ。いわゆる「筋の悪い」話なのだ。

保守派は小さい政府を目指すからあまり増税を志向しない。だから安倍氏に近い人たちが今回の増税に反対するのはわかる気もするが「岸田おろせ」みたいな雰囲気になっているのにはちょっと驚いた。「そうは言うけど国を守るために税金払うのは当たり前」などと言える雰囲気ではなかったのだ。

小川榮太郎氏の卓見

これは政局が混乱するのではないかと心配していたら、文芸評論家の小川榮太郎氏が大変いい事を言った。Facebookへの投稿で小川氏は「増税案の内容そのものは抑制的なもの。しかし増税先行の印象がよくない」と指摘したのだ。

小川氏はまた「安倍路線の継承を決意した瞬間から岸田叩きになる」と警告している。確かに岸田氏は安倍氏が敷いた防衛力強化の路線を継承し、今回防衛費増額を決めた。だが財源を財務省に相談したら歳出改革や外為特会の活用など様々なアイデアは出たが、彼らは当然増税も入れ込んできた。それを岸田氏が正直に最初から打ち出したから、それを理由に岸田叩きが起きているという構図なのだ。

実は岸田氏は所得増税よりはるかに重要な決断をしている。それは自衛隊の施設整備に向けて建設国債の発行を検討するというものだ。冷静に考えれば当たり前のことなのだが、これまでの「防衛費に国債は使わない」という政府方針を大きく転換するものではあることは間違いない。

ミサイルを撃つのをやめない北朝鮮…(朝鮮中央テレビより)
ミサイルを撃つのをやめない北朝鮮…(朝鮮中央テレビより)

いくら言ってもミサイルを撃つのをやめない北朝鮮、現状変更や軍拡を続ける中国、そしてウクライナを侵略したロシア。我が国はこんなとんでもない国々に取り囲まれているので防衛力を強化することについて国民のコンセンサスはもうできていると僕は思う。

ただ日本の防衛費の対GDP(GNP)比は1967年頃から半世紀以上ずっと1%のままなので、今の日本人は防衛費を増やした経験が事実上ないと言っていい。だから財源をどうしていいかわからず混乱している。方法は3つ。他を削るか、借金するか、増税か。岸田氏が今回出した増税案は僕も「抑制的」だとは思うが多くの国民が納得していないのであれば、あまり急いで決めずに少し皆で議論してからでも遅くはないと思う。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

記事 319 平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。