岩手県盛岡市に移住して6年。四季の移ろいを肌で感じながら創作活動を続ける木村紅美さんは、2025年に小説『熊はどこにいるの』で谷崎潤一郎賞を受賞した。震災ボランティアの経験や身近な子育てをテーマに描いた作品が高く評価され、デビュー20周年となる2026年に向けて「予定調和を破壊する」という創作姿勢を掲げている。盛岡の風景に刺激を受けながら新たな物語を紡ぐ作家の素顔に迫った。
盛岡の四季から生まれる創作
「毎日近所を散歩しているだけでも、渡り鳥が川に来たなとか今度は花が咲き始めてとか。1年のサイクルにインスピレーションを受けるものがある」…そう話すのは、作家の木村紅美さん。
兵庫県出身の木村さんは東京都の大学卒業後、アルバイトや会社員を経て2006年に『風化する女』でデビュー。文芸雑誌『文學界』の新人賞を受賞した。
人の孤独や葛藤を細やかに表現する作風で人気を集めてきた。
東京都内で執筆活動を続けていたが、6年前に母親の実家がある盛岡市に移住した木村さん。
「東京は長く住んでいるから、たまに遊びに行くくらいで良いかなという気持ちで、こっちに移ることにした。中津川沿いが大好きですね」と語る。
谷崎潤一郎賞受賞作に込めた思い
盛岡に移り住んで5年が経った2025年、木村さんは小説『熊はどこにいるの』(河出書房新社)を発表。この作品が、時代を代表する優れた文学作品に贈られる「谷崎潤一郎賞」を受賞した。
受賞の反響は大きく、盛岡市内の書店では「最高傑作」として木村さんの作品が平積みされている。
「贈呈式を経ても実感はわかないが、うれしかった。とても励みになった」と振り返った。
受賞作『熊はどこにいるの』は、地震や津波の被災地を舞台に、人里離れた山奥で親に捨てられた男の子を育てる女性たちの複雑な心情を描いた物語だ。
木村さん自身が、仕事で忙しい妹に代わっておいっ子の世話をした経験がストーリーに反映されている。
木村紅美さん:
私はかなりおむつも替えたしミルクもあげたし、添い寝もしたりして(おいっ子と)一緒にいる時間が長かった。それで子育てをテーマにした小説を書きたいと思った。
震災の記憶を作品に昇華
作品に描かれる津波で建物が流された後の街の生々しい描写には、木村さんが東日本大震災が発生して間もない時期に、陸前高田市や大槌町でがれき撤去などのボランティアに参加した際の記憶が反映されているという。
「震災のひと月後だったが、その時に見た光景はやっぱり忘れられない。『こういう書き方はどうだろう』と、できるようになってきた」と木村さんは語る。
地域で生活しながら身近な出来事をテーマに執筆を続ける木村さん。
デビューから20年となる2026年に向けた思いは、「予定調和を破壊する」という言葉に集約される。
「べたに泣ける物語や感動ものみたいな物語は書かないで、決まった流れを破壊しながら書いていく書き方をできるといい」と語った。
