全国の書店員が選ぶ2025年「本屋大賞」に岩手県花巻市出身の作家・阿部暁子さんの「カフネ」が選ばれた。受賞作「カフネ」は、弟を亡くした主人公と弟の元恋人が家事代行サービスを通じて絆を深めていく物語だ。
岩手県出身者としては初の快挙となる受賞に「思いがけない受賞」と喜びを語る。阿部さんの創作の原点となった故郷との関係、「カフネ」に込められた思い、そして今後の創作活動について聞いた。
「頭が真っ白になった」受賞の驚き
4月9日、全国の書店員が投票で選ぶ「本屋大賞」に花巻市出身の小説家・阿部暁子さんの「カフネ」が選ばれた。受賞後初めて盛岡を訪れた阿部さんに、県出身者で初めてとなる本屋大賞の受賞について話を聞いた。

「あまりにも思いがけないことで実感がなくて、少し頭が真っ白になった」と阿部さんは受賞の瞬間を振り返る。
作家 阿部暁子さん:
おめでとうという祝福の言葉を県内各地の方々から頂いた。皆さんが喜んでくれているのを見て、少しずつ実感が湧いてきた。
「カフネ」に込めた繊細な人間関係
受賞した作品は、弟を亡くした主人公・薫子が、弟の元恋人・せつなが勤める家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝いながら「食」を通じて、せつなとの絆を深めていく物語だ。
「カフネ」はポルトガル語で「愛する人の髪にそっと指を通す仕草」のことで、タイトルに込められた思いについて聞いた。

作家 阿部暁子さん:
薫子とせつなには簡単に名前を付けられる関係がない。でも時間を重ねるごとに確実に2人の間に育っていくものがある。『カフネ』という言葉が二人の関係をすごく大きく、くるみ込んでくれるような気がしてタイトルにした。
「まあ大丈夫だよ」と伝えたい
作品には、薫子とせつなが家事代行サービスで出会う人々の生活を「料理」で救っていくエピソードが数々つづられている。
身近な「食」をテーマに独自のエッセンスを加えたことが、読者の共感を得たのではないかと阿部さんは話す。

作家 阿部暁子さん:
今って割と皆さんすごく忙しくて、結構いっぱい いっぱいになりながら、一生懸命毎日生きているという印象がある。「部屋を整えてちゃんとしたご飯を食べよう」という話にはしたくなかった。たとえ部屋が散らかっていても、ちゃんとしたご飯が作れてなくても「まあ大丈夫だよ」と思ってもらえる話になっているといいなと思う。
読者に受け入れられた理由については、「おそらく登場人物の誰かに少しは共感してもらえたり、この人物の行く末を見てみたいと感じてもらえたことだと思う」と分析する。
高校時代の読書体験が創作の原点に
高校生の時に作家を志したという阿部さんは、岩手県出身の作家の影響を強く受けたという。
「高橋克彦さんの歴史小説が大好きで、高校生の時に読み始めたら面白すぎて止まらなくて、あす中間テストなのに徹夜で読んで、世界史で30点取っちゃったことある」と笑顔で語った阿部さん。

「すごく心を打たれてワクワクしたり、感動して泣いたり、そういう幸福な思いをもらった記憶があるので、自分も同じことをしたいという気持ちが、ずっとそれに支えられ続いてきたんだと思う」と創作の原点を語った。
岩手を舞台にした作品への意欲
5月9日、阿部さんは受賞報告のために県庁を訪れていて、今後の作品について話す場面もあった。
「今までは土地が自分に近すぎて書くことができないなと思っていたが、いつか舞台を岩手にして書いてみたい」と地元を舞台にした作品への意欲を示した。

そして「家族って当たり前のように一緒にいる。息をするのと同じように一緒にいる。だから岩手も同じような感じで当たり前のようにずっと、きょうここにいるみたいな感じの時間を重ねてきた」と故郷との関係を語った。

作家 阿部暁子さん:
「カフネ」は少し重めの話だったと思うので、今度は明るく楽しい話も書いてみたい。
大切な誰かに届けたくなる本を書き続けている阿部さん。今後の活躍にも目が離せない。
(岩手めんこいテレビ)